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シャイニーストッキング

第9章 絡まるストッキング8        部長佐々木ゆかり

 29 あの人…

 あ、あの人のことだ…

「ええー、誰よぉ、教えてよぉ」
 伊藤さんがそんな越前屋さんを急かしてくる。

 わたしの心は急にザワザワしてきた。

 あの人だ、間違いない…

「はい…
 えーとぉ、大原本部長さんです…」
 越前屋さんはそう言うと急激に顔色が高揚気味になってきて、恥ずかしそうに下を向く。

 やっぱり…

「えっ、大原本部長さん…って?」
 伊藤さんは不思議そうに言ってきた。

 ああそうか、伊藤さんは彼のことを、あの人のことは有給消化中だったから知らないのか…

「あ、うん、ほら、資産運用部での会議で、あの真中常務を震わせたって云ったじゃん…
 あの人なの…」

「…………」

 なんてこと無い会話、いや、軽く、楽しい女子会的なトークなのだが、わたしは一瞬、あの人の名前が出てしまって返す言葉に詰まってしまっていた。

 確か越前屋さんは約一週間、あの人と一緒に、あの生命保険会社の各部の会議に秘書代わりに同席していたのだ…

 その時にあの人の男としての魅力に、そして器の大きさに触れて、魅了されてしまったのであろう…
 そう思われる。

「えー、そんな素敵な人なんですかぁ?」
 すると伊藤さんは唐突にわたしに訊いてきたのだ。

「えっ、あっ、う、うん、そうね…」
 わたしはそんな伊藤さんからの急な問い掛けに、少し動揺してしまう。

 ヤバい…

 普通に、普通にしないと…

「あ、うん、そうねぇ…
 確かにそう、うん、素敵かもねぇ…」
 わたしは必死に取り繕う。

「うん、確かに越前屋さんが素敵だなぁって思うところはあるかもねぇ」
 そしてそう付け加える。

「ですよねぇ…
 そうなんですぅ…
 わたしぃ、あの一週間ご一緒して、そしてあの憎き真中常務をギャフンといわした時にドキドキしちゃったんですぅ…」
 越前屋さんは一気に話してくる。

「そしてぇ、ああ大人だなぁ…って、ときめいちゃったんですぅ…」
 そう続けてきた。
 
「確かにそんな面はあるわよねぇ…」
 脳裏にあの人の顔が、笑顔が、いっぱいに浮かんできて、思わず呟いてしまう。

「あっそうだぁ、ゆかり室長は大原本部長さんとはもう二年以上のコンビなんですよねぇ?」
 
「あっ、うん、そうよ…」

 わたしは今度はザワザワから、少しドキドキとしてきていた…




 

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