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シャイニーストッキング

第9章 絡まるストッキング8        部長佐々木ゆかり

 46 俳優…

「あ、あれ、俳優の三山蓮太郎っすよね」
 すると杉山くんは、喫茶室の端におそらくはマネージャーと、テレビ局関係者と同席している四人を見てそう囁いてきたのだ。

「えっ、そうなの?」
 わたしは杉山くんの声のままにそっちを向く。

「やべぇ、やっぱりカッコいいっすねぇ」

 あっ…

「えっ、あっ、うん…」
 わたしはそんな彼らを見て、ドキッとしてしまう。

「あっ、あれ、こっちを見てるかも?」
 
 えっ…

「あれっ、やっぱりこっち見てる…
 あ…
 あ、こっちに…来た…」
 杉山くんがそう言った時である。

「あれぇ、やっぱりそうだぁ」
 と、その俳優の三山蓮太郎が声を掛けてきたのだ…

 あ、え、ヤバい…

「久しぶりじゃん、ゆかり姫…」

「あっ、え…」

 なんと…

「え、佐々木部長を…」
 杉山くんは状況を全く呑み込めなく、一人、慌てている。

「7、8年振りかなぁ、ねぇ『姫』」
 と、彼は『姫』を強調して声を掛けてきたのだ。

 ああ、ヤバい…

「あ、う、うん、久しぶりね蓮…」

 こうまで目の前に来られたら、知らん顔は出来なかった…

 そしてこの状況に杉山くんは、まるで狐につままれた様な顔をしてポカンとしていた。
 
 そうなのである…

 この声を掛けてきた俳優である
『三山蓮太郎』彼は、いや、彼も…

 わたしの過去の黒歴史の一人であり、生き証人であるのだ…
 
「うわぁ『ゆかり姫』は全然変わってないじゃん…
 ううん、前より良い女になってんじゃぁん…」
 彼は本当に軽く、軽いノリでそう言ってきた。

「え…、れ、蓮こそご活躍で…」
 わたしは思い掛けない突然の再会にすっかり動揺してしまい、そう言うのが精一杯であった。
 
「あっ、えっ?」
 杉山くんはすっかり驚いている。

「『ゆかり姫』は、なんでここにいるの?…
 あ、そうか、お仕事なのかぁ?…」
 どうやら彼はスーツ姿のわたしを見て、そう考えたようであった。

「あ、はい、そうなんです、我々はここの報道部と総務部に営業に来ていまして…」
 杉山くんはまるで彼に誘導されたかの様に話してしまう。

「うん、仕事でちょっとね…」
 わたしはそう言いながら、目で杉山くんに口止めを訴える。

「あ…」
 そんなわたしの視線に気付いた杉山くんは慌てて口ごもった。




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