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シャイニーストッキング

第9章 絡まるストッキング8        部長佐々木ゆかり

 53 大原本部長との電話(6)

『お疲れなのに電話してくれて嬉しいわ、もしかしたら疲れ果てて寝落ちしちゃうかも?って思ってはいたの…』
 これは本当にそう思っていた。

 だっていきなりの派閥絡みのゴルフであり、そして一緒の三人は皆年上であり、副社長、専務、合併先の社長という蒼々たるメンバーなのだ…
 逆にわたしだったら、今頃はダウンしているに違いない。

「あ、うん、その可能性もあったから部屋に戻って直ぐに電話したんだよ」
 すると彼はそう言ってきた。

『あら、それは嬉しいわ』
 本当に嬉しい。

「うん…
 それに、ゆかりの声が聞きたくてね」
 すると、なんと…
 そう言ってくれたのである。

『え…、まあ、嬉しい…』
 わたしはそんな彼の突然の、歯の浮く様な言葉ではあっても、素直に、本当に喜んだのだ、そして心が震えてしまう。
 いや、本当に嬉しい。
 
 なんとなくなのだが、やはり、私達は変わってきているのかもしれない…

 以前のわたしだったならば、彼のこんな歯の浮く様な言葉は一笑に付していた筈なのであるが…
 今は、本当に、本気で嬉しく感じているのである。

 以前、笠原響子主任から、わたしの心のカドがなんとなく取れた、丸くなったように感じる…
 と、云われた事があったのだが、それはこういう事なのかもしれない。

 それにわたしは彼を、大原浩一本部長を愛しているのだと本当に実感し、日に日に変化しているようなのでもある事を自覚してきている…

 そしてまた、昔の彼の事を良く知っている笠原主任曰く…
 『彼もかなり丸くなった…』と言ってきて、それがこんな歯の浮く様な言葉を言うという事に通じているのじゃないのかと思っていたのである。

 だからお互いに、こんな歯の浮く様な甘い言葉を自然に話しができているのかもしれない…


『あら、嬉しいわ、そんな甘い言葉を言ってくれるなんて…
 何かありました?』
 だがわたしはそんな内心の想いを必死に隠し、そして冷静なフリをしながらそう応える。

「えっ、あっ、いや…」
 彼はそんなわたしの冷静なフリの言葉に、ややドキッとした声になって応えてきた。

 最近、わたしはこうして彼を揶揄うのが堪らなく好きであった…





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