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　54　大原本部長との電話（7）

「えっ、あっ、いや…」
　彼はそんなわたしの冷静なフリの言葉に、ややドキッとした声になって応えてきた。

　最近、わたしはこうして彼を揶揄うのが堪らなく好きであった…
　のだが、今夜はゴルフであり、そんなメンバー達にかなり神経をすり減らしている筈であるから、揶揄うのを止めにする。

『あ、昨日、今日って、そんな余裕ありませんものねぇ…
　素直に喜びますねぇ…』
　と、そう言い直した。
　
「そ、そうだよ、こっちは昨日からの急展開でそんな余裕なんか無いんだから…」
　すると、彼は慌ててそう返してくるのだが、それがまた可愛くて、また揶揄いたくなってしまうのである。

『あらぁまあ、、いつもはあるのかしら…』
　と、つい揶揄ってしまい、少しだけ最近の銀座通いをチクリと弄った。
　
「あ、いや、そんなこと…」
　するとそんな皮肉が通じた様で慌ててくる。

　これが、また、本当に、かわいいのだ…
　だが、今夜はこれ以上は弄らないでおこうと思う。

『ま、今夜は銀座では無いですからね』
　と、わたしは含み笑いをしながら言った。


「あっ、それよりも…、テレビ局の方はどうなんだ？」
　すると彼は慌てて話題を変える意味でもあるのだろう…
　そう訊いてきたのである。

　だが、おそらく本当に、それはそれで気にはしてくれている筈なのである事は十分に伝わってきていた…



　今回の吸収合併によって新たに企画された『新規事業計画プロジェクト』は、全く革新的な新しいカタチといえるインターネット中心対応の生命保険会社設立である。
　そしてまずは計画プロジェクト準備室のメンバーも順調に決まり、お盆休み明けからは正式に始動する運びとなりとりあえずは一段落したのだ。

　だが、もう一つ並行して『新規案件』といえる、我がコールセンター部での、今までとは全く正反対な業務態勢となる大きな仕事が動いているのである。
　そしてその対応にわたしはお盆休みの前半を返上して、テレビ局３社相手の打ち合わせの会議を連日行っていたのであった。
　
『え…、あ、うん…』
　突然の話題の振り代えであったのだが、すんなりと言葉を返していく。

　それは今夜はこれ以上、彼を弄るのは流石に可哀想に感じたからだ…