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シャイニーストッキング

第9章 絡まるストッキング8        部長佐々木ゆかり

 64 最悪の余韻

 今夜の自慰行為による余韻は最悪といえた…

 昨夜はこの自慰行為により心の揺らぎが蕩け、そして迎えた絶頂感の余韻が心地良くてあっという間に寝落ちしてしまったのだが…
 今夜の余韻はまるで二日酔いの様な最悪な気分の余韻といえ、寝落ちどころか全く眠気が消えてしまったのである。

 そして、その最悪の気分の原因は分かっていた…

 それは、この心をザワザワと騒つかせている『三山蓮太郎』つまり『三山蓮』の存在感のせいなのである。

『三山蓮太郎』『三山蓮』『蓮』…

 その存在感は本当に消し去りたい、あの過去の黒歴史の、そしてその黒歴史の中でもかなり重要な中心的な存在感のある生き証人であるのだ。
 ある意味、同じ黒歴史の生き証人である武石健太という存在感とは全く種類の違う、いや、正反対な存在感であり、いや、彼の存在感自体が黒歴史そのものの一つ、一人…
 と、いえるのである。

「はあぁ、最悪だわ…」
 思わず、そんな独り言を呟いてしまった。

 それにしてもなぜ、あの最後の、絶頂感を迎える瞬間に彼を、『蓮』を想い浮かべてしまったのだろうか…

 直前に杉山くんの姿が浮かんだからか…
 確かにわたしは、必死に杉山くんの姿を脳裏から掻き消した、いや、消そうと必死になった。
 
 そもそもなぜに杉山くんが浮かんだのだろう…
 わたしは逡巡していく。

 あっ、そうか、浩一さんと杉山くんの唯一の共通点である…

 笑顔だ…

 二人ともに本当に心根の優しい、そして目尻に皺を寄せ、目が無くなってしまうような笑顔を見せる…
 これが二人の唯一の共通点だと思う。

 あの時、あの杉山くんの笑顔が浮かぶ直前に、まず前夜も想い浮かべてしまった伊藤敦子さんの美しい目の表情、そして以前にも何度か浮かべてしまっていた蒼井美冴さんの美しい顔…
 思わずそれらに心が動揺してしまった瞬間の心の隙間に、おそらく今日一日中同行していてなおかつ、一緒に
『三山蓮太郎』と遭遇してしまったという動揺の揺らぎもプラスされてしまい、そしてその動揺が動揺を呼んでの流れなんだろうとは思うのである。

 だが、理由はどうあれ『蓮』の顔を、あの絶頂感の瞬間に想い浮かべてしまった事実は最悪であり、最悪の余韻なのであった。





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