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シャイニーストッキング

第9章 絡まるストッキング8        部長佐々木ゆかり

 104 黒歴史…(39)

 玄関の上がり框には、本当に本物の大女優であり三山蓮の母親である『三山圭子』が立っていた。

「アナタがゆかり姫さん?…」
 三山圭子はわたしに訊いてくる。

「あ、はい、初めまして…」
 そう応えるのが精一杯であった。

 ドキドキ…

 テレビや映画で見かける本物の本人だわ…
 わたしは三山圭子の囁いてきたその声を聞いて、一気に緊張し、そして心が高鳴ってきていた。

 でも、なぜ、本人が?…
 そして同時にそんな疑問も湧いてくる。


「ウチの蓮くんと仲良くして下さっているそうね…」
 
 綺麗な顔…

 綺麗な声…

 テレビや映画、そのままだわ…
 わたしはその時、そんなことを思っていた。

「あ…は、はい…え…と…」
 なんとか返事をする。

「お清さんから、そう聞いているわ」
 お清さんとは家政婦さんの事であった。


「蓮くんは…寂しがりやだから…」
 そして三山圭子は、まるで映画のセリフの様に言ってきたのだ。

「ありがとう…ね…」
 そして、そう呟いたそれは母親的な響きに聞こえた…
 の、だが、次の瞬間に、三山圭子の目の奥がキラリと光ったのを感じた。

「でもね…もう潮時かも…」
 
「え、潮時って?…」

 ドキドキ…

 なんとなくだが、緊張感が昂ぶり、そして心がザワザワと騒めく…

「ええ、もう潮時…」
 今度はそうきっぱりと言ってきたのだ。
 そして美しい顔で、美しい目で、わたしを見つめてくる。

「ええ…うん…そう…お清さんからよく聞いてるのよ…
 もう…潮時よね…
 アナタならわかるわよね…」

 優しい、美しい声音であったが、そのわたしを見つめてくる目には、有無を云わさぬ迫力があった。

 アナタならわかるわよね…

 それは…

 もう蓮との関係を終わりにしろ…
 
 そういう意味か…

「…………」

 わたしは三山圭子の目を見つめ返し、その真意を考えていく。

「潮時よね…」
 再び、そう言ってくる。

 潮時…

 お清さんからよく聞いている…

 それはつまり蓮との女装プレイ…

「………」

 あ、そういうことか…

 多分この時、わたしの目が、そんな三山圭子の言葉の意味を理解した光りを放ったのであろう。

「うん…そうなのよ…
 もう潮時…
 終わりにして下さるかしら…」


 

 

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