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シャイニーストッキング

第9章 絡まるストッキング8        部長佐々木ゆかり

 108 悪循環

「はぁ最悪だわ…」

 嫌な昔の記憶、黒歴史の象徴…

『また、昔みたく遊ぼうよ…』
『三山蓮』は俳優の『三山蓮太郎』としての久しぶりの再会であったのに、なぜ軽々しくそんな言葉が云えたのだろうか?…

 あの母親で、大女優である『三山圭子』がわたしと蓮を強制的に終わりにさせてから一度も連絡も無く、あの後、元々の出会った場所である『六本木クラブJ』でも再会も果たさなかったのに…
 蓮にとって、あの過去は黒歴史ではないのだろうか?…
 まるで、あの約8年間という空白の時間、そしてあんな別れ方をしたなんて全く関係ない感じでまるで昨日の事の様に普通にそう話してきた…
 その彼の無神経さと想いと、彼の考え方がわたしには全く理解できなかったのだ。

 せっかく大原浩一本部長を想い募らせた自慰の余韻が完全に崩壊し、後味の悪い、まるで二日酔いの様になってしまっていた…

「はぁぁ…」
 そしてすっかり心の中で封印していた黒歴史の記憶が蘇ってしまい、思わずため息が漏れてしまう。

 あぁどうしよう…

 眠れそうも無いわ…
 目を閉じれば大女優の『三山圭子』が目蓋の裏に浮かび上がり、そして続け様にその母親である大女優に女装した『三山蓮』の姿が浮かび上がる。
 それをなんとか振り切ろうとすると今度は昼間に再会した現在、俳優として大活躍をしている『三山蓮太郎』の顔が浮かび上がってくるのだ。
 そして更にその直後に逃げた存在といえるスキューバダイビングのきっかけとなった、二代目坊ちゃんの不動産会社の専務の顔が浮かび上がってくる。

 それがフラッシュバックの様に次から次へと浮かんでは消え、また再び浮かんでは消えと…
 正に、黒歴史の悪循環であった。

 既にわたしの脳裏が完全に、あの約8年前の大学3年の秋頃の記憶を蘇らせてきていたのである。

 ああ、どうしよう…

 午前零時をとうに過ぎている…

 彼に、大原浩一本部長に電話をする訳にもいかない…

 彼は明日も、大切な副社長とのゴルフなのである…

 ああ、どうしよう…

 あ…

 いや…

 ダメだ…

 蒼井美冴さんにも、さすがに電話は出来ない…

 なぜならきっと今頃は、健太の腕の中で微睡んでいる筈だから…

 黒歴史の嫌悪感…

 そして孤独感が…

 わたしの心を冷たく貫いてくる…

 



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