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シャイニーストッキング

第9章 絡まるストッキング8        部長佐々木ゆかり

 132 『鉄の女』

「うふ、大丈夫よ、『鉄の女』知ってるから、それに『黒い女』もね…」
 わたしはそう言ってあげた、なぜならば、杉山くんは口を滑らせてしまった…
 みたいな焦った顔をしていたから。

「…あ、知ってたんスか…」
「うん…」
「あの頃の課長は、いや、部長は…
『鉄の女』の異名の通り、硬く感じて近寄り難かったっスから…」
 
「そう…だったかなぁ…あ、かもね…」
 そこら辺の話しは笠原主任から訊いて理解はしていた。

「でも最近、そう、部長に昇進するちょっと前辺りから、なんか変わったっスよね、なんかぁ、柔らかくなったっていうかぁ…」
 そこら辺も笠原主任から訊いて分かっている。
 
 きっと彼、大原本部長への愛を自覚したからだわ…

「だからぁあの頃の部長にはとても合コンなんて、いや、カラオケさえ誘えなかったっスよぉ」

 そんな杉山くんの言葉には異論は無かった…
 確かにあの頃は硬かった。

「でもこの前『保険メンバー』とカラオケ行ったのよ」
「ええっマジっスかぁ」

「うん、マジっス」
 実はわたしはこの杉山くんの体育会系の言葉が好きであったのだ、なんとなく心が和らぐ感じがするのである。

「うわぁマジで部長とカラオケ行きてぇ」
 と、杉山くんは唸る様に言ってくる。
 いつの間にか暗さが消えて、いつもの明るい杉山くんに戻っていた。

「あっちなみに、俺と鈴木さんが部長派で、山中さんは元『黒い女』の蒼井美冴さん派っス」
 そんな余計なことまで話してくる。

「へぇ、そうなんだぁ…
 鈴木くんもねぇ、嬉しいわ」
 そう素直に嬉しい。

「あ、それっスよ、その笑顔が最近部長の新しい魅力になったって鈴木さんとよく話してるんスよぉ」

 笑顔…

 丸くなった…

 カドが取れた…

 笠原主任にこの前云われた言葉である。

 そう云われる位に、本当にわたしは変わったのだろう…

「ま、そんなアレなんスけど、なぜか俺はモテないんスよ…」
 と、再び杉山くんは話題を戻してきた。

 そのことを本当に、気にしているのであろう…

「モテないんじゃないのよね…」
「えっ」
 わたしがそう言うと、不思議な顔をしてくる。

「モテないんじゃなくてさ、いい人で終わっちゃうのよね…
 そうでしょう?…」
 
「………」
 そう言うと、図星みたいな顔をしてきた…




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