テキストサイズ

シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 68 準備室室長佐々木ゆかり(6)

 シャネルの19番の香りが、まさに、そ
の…
『サッパリとした感じのほのかな甘さ』の香りに、わたしは感じるから…

 だが、あの夜…
   (1647P〜参照)

 彼、大原浩一常務は…
『あ、帰りの新幹線の隣に座り合わせたお姉さんの香りじゃないかなぁ?』
 と、言ってきたし、その言葉には不自然さは感じられなかったのだ。

 なぜなら彼は、ウソ、嘘がヘタだから…
 それに彼のウソ、嘘はすぐに見抜けられる自信もあった。

 まさか、銀座のクラブのお姉さんが…
 という事はあり得ない。

 そして、彼の帰省に仮にその秘書が同行していた…
 それも、あまりにも荒唐無稽な想像である。

 考え過ぎだわ…

 それに、疑い出したらキリが無いわ…

 わたしはこの心のモヤモヤとザワザワ感をなんとか払拭しようと考えな直していく。

「ふぅ…」
 そして、誰にも気付かれない様に、小さなため息を漏らす。

 あ…

 だけど美冴さんだけには、そんなわたしのため息に気付いたみたいに、わたしをチラと見ていた…

「もぉ、あっちん、いい加減にからかうのはやめてぇ」
 と、越前屋さんが楽しそうに声を上げている。

 本当に彼女は楽しいキャラである…
 そしてそのキャラにわたしは何度となく、心を軽くして貰っていた。

 もう、バカな想像は止めよう…

 そもそもがあり得ないんだから…

「そういえば、伊藤さんは越前屋さんの御宅に泊まっているの?」
 わたしは自身の気持ちを切り替える意味もあって、そう訊く。

「あ、はい、あっちんは16日に日本に帰ってききて…
 とりあえずわたしね家に泊まってまぁす」

「えっ、日本に帰ってきたって?」
 と、その越前屋さんの言葉に、すかさず健太が反応してきた。

「あ、はい、実は…」

 そして伊藤さんは、退職の経緯とロサンゼルスの両親の元に行った事、そしてマンションを引き払ってしまった経緯等をザッと話してきた…

「へぇ、そうなんだぁ」
 健太がそう呟く。

「はい、ま、暫くはホテルステイでもいいかなぁって?」
 そう伊藤さんが言った時である…

「あっ」
 と、美冴さんが何かを思い付いたかの様に声を出した。

「あ、あら、やだわ…」
 そして恥ずかしそうに呟いた。
 




ストーリーメニュー

TOPTOPへ