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シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 70 準備室室長佐々木ゆかり(8)

「そうよ、そうだわ伊藤さん…」
 そしてわたしはそう思い、伊藤さんに…
「そうよ伊藤さん、しばらくわたしのマンションに来る?」
 そう言う。

「えっ?」
 すると今度は伊藤さんが驚きの声を漏らしてきた。

「あ、うん、わたしのマンション、3LDKでさぁ、一人だと広過ぎてぇ…
 それに一部屋、完全に空っぽで空いてるのよ…」

「え?、し、室長のマンションに?」
 伊藤さんは更に驚きの声を上げてくる。

「うわぁ、いいなぁ」
 と、越前屋さんが言い…
「ゆかり室長のマンション、羽田エリアで夜景が凄いのよぉ…」
 と、美冴さんが続けて言ってきた。

「え、で、でもぉ、そ、そんなぁ、迷惑だしぃ…」
 伊藤さんは戸惑いの声を漏らしてくる。

「え、いいえ、そんな、迷惑なんてことは無いわよぉ」

そう、迷惑ではないのだ…

 なぜならば、彼、大原浩一常務との逢瀬は、基本、いつもの池袋のホテルが殆どであり、たまに、わたしの衝動による彼のマンションであり…
 このわたしのマンションで抱かれた事は、この二年半の間で一度しか無かったから。

 それに…
 わたしはふと、チラと美冴さんの顔を見る。

 それに、もう…
 美冴さんとは禁断の快感であり、魔法の様な、蕩ける時間は、情交は、したくは無いから。

 いや、本当の本音は…
 もっと、もっと沢山愛し合いたい。

 だが…

 禁断なのだ…

 いや、禁断の快感が故に、もう愛し合いたくは無い。

 わたしは過去の『黒歴史』を辿れば分かる様に、意思が弱いのである…

 このまま、美冴さんと、仮に、万が一関係を続けてしまったならば…
 もしかしたら、せっかくの友情までもが失ってしまうかもしれないから。

 それ位にあの禁断の快感は強く…

 深く…

 危険な…

 まるで諸刃の剣なのだ。

 そして、それに、もしも万が一、わたしが美冴さんに甘えてしまったならば…
 美冴さんは間違いなくわたしを受け入れてくれる優しさがあるから。

 それにこれからのわたしと、彼、大原常務は、益々、更に多忙になり、もしかしたら逢瀬の時間もままならないくらいになるのは…
 明白だから。

 寂しい夜を迎えるに違い無いから…


 だからこそ、美冴さんの存在感は、多分に、これから益々重要になってくるし…



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