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シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 166 午前9時15分…

「おはよう…」
 そう言いながら、彼、大原常務が準備室代りの会議室に入ってきた。

「あ、お、大原部、あ、常務…」

「お、おはようございます」

「おめでとうございます…」
 等々…
 準備室にいるメンバーは、面識がある者、無い者、様々なリアクションで彼に挨拶をしていく。

 すると、それらをまとめる意味でも、武石健太が…

「大原常務、常務就任おめでとうございます」
 と、いいタイミングでそう挨拶をし、その場の皆がそれに追随して…
「常務就任おめでとうございます」
 と、声を揃えたのだ。

「おいおい、そんな大袈裟なぁ…」
 彼は本気で恥ずかしそうに応える。

「いや、大袈裟じゃありませんよ」
 蒼井美冴さんがそう言う。

「あ、いや、ありがとう…」
 そう彼は返し、落ち着いた。

「大原常務、彼女が…」
 そのタイミングでわたしは伊藤敦子さんを紹介する。

「初めまして、この度お世話になることになりました伊藤敦子です、よろしくお願いします」
 と、深々とお辞儀をして挨拶をした。

「あ、うん、佐々木くんから訊いているよ、よろしく頼む」

 だが、わたしはこの一瞬に、彼がこね伊藤さんの美人さに驚きの表情になったのを見逃さなかったのだ…

 全く、この助平ジジイが…
 だけど彼も、以前、わたしにキツく意識をされたせいか、誤魔化すのが上手になったみたいであった。

 ま、今は仕事中だから…

「じゃあ、とりあえず部長室で面接をお願いします」
 わたしは敢えてそう業務的に伝え、彼と伊藤さんを今はわたしの部屋となっている部長室へと導いていく。

「あ、うん、そうだな」

 そして三人で会議室を出て部長室へ歩いていくと…

「大原くん、あ、ごめん、大原常務おめでとう」
 と、コールセンター部主任で、彼と同期でもある笠原響子主任が声を掛けてきた。

「あ、笠原さん、そんな大袈裟なぁ」

「ええ、大袈裟じゃなくて、凄いわよ…
 同期一番の出世頭なんだからぁ」

「いや、恥ずかしいなぁ…」
 と、彼はそくさくと部長室へ逃げる様に入っていく。

 そして、部長室の小さなソファに対面で座り、面接を始めた…



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