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シャイニーストッキング

第13章 もつれるストッキング2     佐々木ゆかり

 89 敦子の想い(26)

 まゆみサマは乳癌に罹患していたのである…
『医者の不養生ってヤツよね…』
 まゆみサマはわたしにそう笑って話した。

 しかし既に、そんな笑える様な症状ではなかった、いや、まだその時は知らなかったのだが、もう手遅れの症状であったそう…
 当時のまゆみサマはまだ若い30歳、若ければ若いほど、ガンという疾病は進展が速いのだ。

 そして彼女はその半年以上前から自覚症状があったらしいから…
 通院すると直ぐに都内の大学病院を紹介され、検査したかと思ったらそのまま入院する流れとなったのである。

 それでもわたしには…
『大丈夫よ、サクッと手術すれば治るからさぁ…』
 と、明るく話してきたのであるが…
 さすがのわたしでもかなりの重症である事は分かったのだ。

 そして…
『貴女がまゆみさんと親しくされている敦子さん?』
 と、彼女が最初に手術した4月半ばのつまり、わたしが大学入学した春先に入院している大学病院のロビーにまゆみサマの母親に呼び出され、そう声を掛けられたのである。

『あ、は、はい、伊藤敦子といいます』

『ふぅん…』
 まゆみサマの母親はそう鼻先で返事をし、まるでわたしを値踏みするかの如くに上から下まで一瞥してきた。

『ずいぶんとまぁ…お若いのねぇ…
 お幾つになられるのかしら?』

『大学一年生です…』

『あら、まぁ…』
 その母親はわたしのあまりの若さにやや呆れた様な声を漏らし…
 そして以前にまゆみサマが云っていた『ウチは医者の家系なの』
 と、その母親はまるでその言葉を象徴する様な、やや上品な、いや、決して一般市民のわたしらでは無いとわかる様な、いいや、上流階級みたいな品位と、そして我々一般市民をやや侮蔑する様な視線をわたしに向けてきたのだ。

 

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