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シャイニーストッキング

第13章 もつれるストッキング2     佐々木ゆかり

 95 敦子の想い(32)

 もちろん、夜の巷では男に誘われた、そして抱かれたのだが…
 まゆみサマとの4年間という蜜月な、甘く深いビアンの関係にすっかり蕩け、染まっていたわたしには…

 男という存在はあまりにも…
 ガサツで汚い存在感にしか感じられなかった。

 男の纏う体臭が…
 タバコのニオイが…
 ヒゲの感触が…
 指先のゴツさが
 カラダの筋肉が…
 いや、男という存在感自体に拒絶反応を感じてしまうのだった。

『「ビビアン」のママがね、わたしを目覚めさせてくれたのよ…』

 そしてわたしは、まゆみサマにそう訊き、一度だけ連れて行ってもらった…
 新宿某所のレズビアンバー「ビビアン」へ行ったのだ。

『あら、確か、アナタはまーちゃんと…』
 そのバーのドアを開けた瞬間に、たった一度だけの来店だったのにも関わらずに、わたしの事を覚えてくれていたらしい…
 ママはそう言ってくれてきた。

 まだ時間が早いせいか他のお客は居なかった…

『…………』

『あら、まーちゃんは?
 お一人なのかしら…』

 まーちゃん…
 それはまゆみサマの呼称。

 まゆみサマはそう呼ばれ、ママに大学生時代に愛され、ビアンに目覚めたのだと云っていた…

『…………』
 わたしはなぜか、そのママの目を見た瞬間に…
 まるで涙のダムが決壊したかの様に、涙を溢れさせてしまう。

『ひ、えっ、ひん…』
 激しく嗚咽し、号泣してしまった。
 
 わたしはそう…
 まゆみサマの母親以来、泣いてはいなかった…
 いや、多分、泣く事を忘れていたのだと思う。
 
 だからこうして、まゆみサマとの思い出のひとつの軌跡に触れた瞬間に、堰を切ったかの様に、いや、まるでダムの決壊の如くに激しく泣いてしまったのだろいと思われた。

 激しく泣くこと約10分…
『ひっ、ひっ、ひっく、ひ、ひ…
 ふ、ふぅぅ…』
 ようやく嗚咽が治まった。

『まーちゃんに何かあったのね…』
 恐らく40歳代半ばであろう、経験豊富そうなママは、こんなわたしの様子に察しがつき、そう訊いてきたのだ。

『ひ、え、ひん、あ、あの……』
 そしてわたしは何とか今迄の経緯を簡単に話しをする。

『あ、あら、まぁ……』
 そしてママは絶句し、暫し沈黙する。

 


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