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シャイニーストッキング

第13章 もつれるストッキング2     佐々木ゆかり

 122 会社到着

 8時10分…
 わたしと伊藤敦子を乗せたタクシーは会社前に到着した。
 
 そしてわたし達は指先を絡ませ、スカートから伸びたストッキング脚を密着させ、無言のままにタクシーの後部座席に座っていたその約50分の間中…
 言葉ではなく、指先と触れ合っていた脚からわたしに対する様々な熱い想いが伝わってきていた、いや、激流の如くにわたしの心の中に流れ込んできたのだ。

 しかしその無言の触れ合いについてわたしは何も言えなかった、ううん、反応ができなかった。

 なぜなら…
 わたしは昨夜の彼女からのビアンの快感や愛情を全て受け入れた訳ではなくて…

 ううん…
 本当は、自分の想いや隠されていた、いいや、隠れていた思考、嗜好を…
 ホンモノの敦子の存在感を認めたくなかった、ううん違う、認めるのが怖いから…
 どう応えれば良いのか分からなかったからである。

 しかし…
「うわ、やっぱりタクシーは快適ですねぇこの暑さの中、汗ひとつ掻かなくて凄く楽だしぃ」
 そんな言葉でそれまでのタクシー内の沈黙をあっさりと破ってきた。

「え、あ、うん、そ、そうね」
「やっぱり部長さんパワーは凄いなぁ」 
 と、にこやかに、そして本当に爽やかな笑顔でそう言い…
「さぁ今日も頑張ろう」
 と、呟きながらエレベーターのエントランスホールへと、スタスタと歩いて行ったのである。

 わたしはそんな彼女の後ろ姿を眺めながら…
『そうか、仕事は仕事、夜は夜、敦子はそう切り替えているっていう事なのか…』
 そんな後ろ姿を眺めながらハッとした。

 そして、すっかり彼女に翻弄されている自分に動揺してしまっている事に気付いたのだ。

 もう、このわたしがちゃんと切り替えしなくては…
 じゃないと明日から、いや、今夜、ううん、今から乗り越えられないわ…

「あ、佐々木部長おはようございます」

「佐々木室長おはようございます」

 そう思い直しているわたしの後ろから、出勤してきたコールセンターのスタッフや『新規プロジェクト準備室』のメンバー達か朝の挨拶をしてくる。

「あ、うん、おはよう」

 そう、ちゃんとしっかり切り替えしなくては…
 今までだって彼、大原常務との事だってちゃんと切り替えできて隠せてこれたんだから…
 と、わたしは改めてそう思い、エレベーターへと歩いて行く。



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