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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

 4 揺れる罪悪感

『彼女が変わったのは大原くんの愛情のお陰よね』
 と、ついこの前、同期でもある笠原響子コールセンター部主任から云われた。

 それはそれで嬉しく思うのだが…
 しかしこの社内では、二人の関係がバレる訳にはいかないのである。

 また、このゆかりとの関係を知っているのはおそらくは…
 蒼井美冴さんとこのコールセンター主任の笠原響子さん、そして新たに専属秘書となった松下律子だげであるはず。

 そしてこのゆかりとの関係は、他の社員、もちろん山崎専務にも絶対に秘密、いや、バレる訳にはいかないのだ…
 もしも、万が一、バレてしまったなら、その瞬間に私の威厳が失墜し、そしてゆかりの地位はアッという間に崩壊するのは必至なのである。

 なぜならば…
 ゆかりの出世は私の常務という力の七光りのお陰からの出世と、瞬く間に社内に広かる筈であるから。

 本当にゆかりの実績の出世であるのだが、一瞬にしてそんな実績なんて吹っ飛んでしまい…
 ウワサだけが完全に一人歩きしてしまうのは必死であるのだ。


 だから私とゆかりの二人は、お互いに対峙する時や社内での関わり、そして会話を交わす時等は心を鬼にして…
 常に周りの目を極力意識する事にしていた。

 秘かに誰が私達を見ているかわからないから…
 そしてこれがお互いの身を守る為の最善のひとつの方法でもあるのだと。

 だがそんな私は今、こんなに愛しいと感じているゆかりを裏切りつつある…

 そう、新たに私の心の中には…

「ま、お互いに忙しいなぁ」
 だから私はそんな想いからの自虐や罪悪感等を紛らわす意味でもそう呟く、いや、誤魔化しかもしれない。

「はい、嬉しい悲鳴ですね」
 しかしそんな私の内心の揺らぎ等には気付かないであろうゆかりは優しい目を私に向けながら、そして二人にしか分からないアイコンタクトをし…

「ご苦労さまでした、わざわざありがとうございました」
 ここは完全個室の部長室内であり、誰も見てはいないのだが、そう頭を下げて言ってきたのだ。

「あ、う、うむ」

 私の心が本当に罪悪感に揺れてくる…

 さっき一瞬にして抱いた野心、野望の熱い思いの火が消えかかってしまいそう、いや、ほぼ消えつつあった。

 やっぱりゆかりを愛してい……

 ブー、ブー、ブー…
 その時、ゆかりの携帯電話が着信する。



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