テキストサイズ

シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

 50 律子の変化

『まだ早い…』
 それは何が早いのか?…
 何に対して早いのか?…
 その思いの答えを一瞬の内に、必死に脳裏を巡らせると…

「あっ」
 ある思いが浮かび上り、思わず声に漏れてしまう。

「え?」
 その呟きに敏感な律子は反応をしたのだが…

「そうだよな、そう、今から出張、仕事なんだからな」
 咄嗟に浮かんだ言葉を口にする。

「もぉそうですわよ…本当にぃ…
 これから出張なんですからぁ…」
 どうやらそんな私の繕う言葉が上手くなったのか微笑む。

 そして…
「今夜まで待ってくださいね」
 とも云ってきたのである。

 あっ、これだ…
 この言葉が、律子の微妙な変化の現れなんだろう…
 私は内心ハッとした。

 今までの律子だったらこんな言葉は云わなかった、いや、決して云わなかった筈なのである。

 今までの律子はなんとなく、勿論、私がひと回りも歳上だし、銀座のクラブでのお客という意識もあったのであろうが…
 いつも一歩後ろに引いているという様な感じであった。

 多分、それが、私が今まで感じていた微妙な、小さな違和感、律子の心の中の薄いカベ、壁に感じていたのであろうが…
 やはり、今朝からそれが消え、いや、払拭され、一気に距離感が縮まった様に感じられるのだ。

 そして思考を巡らせると、それは昨夜からの今朝の出来事…
 つまり、私のマンションに来訪し、そして一緒に、いちおう行き付けの店としての『カフェバー波道』で共に食事をし、律子にとってだけの私のプライベートの秘密のひとつを共有したという想いが、この変化をもたらしたのだと思われるのだ。

 それに先のお盆休みに私の田舎に来訪し、私の過去の青春の思い出や、甥っ子達という家族の一部に触れられたという事が相まっての…
『わたしだけ…』という想い。

 そして律子にとっての私を巡るライバルであり、恋敵的な存在感の
『佐々木ゆかり』からも一歩も二歩もリードできたという…
 この『わたしだけ…』という想いが、今朝からの律子の心を変えたのであろうと思われる。

 いや、間違いはない…

 また、それは佐々木ゆかりにもあった変化である…
『カドが取れ、まるくなった』
 にも共通すると実感もした。

 そして、そんな律子の変化を察知したが故の私の…
『まだ早い…』という思いである。

 それは…
 
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ