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イドリスの物語

第4章 北へ

イドリスの城より60キロほど歩いたあたりから急にジメジメとしてきた。
道に生えた草木もイドリスの城がある地域とは違って発育が遅いようだ。それだけこちらは寒く雨が多いのだろう。
ついさっきも降ったようだ。
地面に雨の跡がある。そして森が見えてきた。
この空模様だとまた雨が来そうだ。日も暮れてきたためこの辺りで宿を取るか。

そうイドリスは考えた。

皆に止まるように伝えたのはジョシュアだ。

すっかりイドリスの右腕のような働きだ。
アルトは若干焦りがあった。

だけれどジョシュアには負けない剣の自信があった。
戦争で腕は証明すればいいさ。そう考えていた。

一方イドリスはベンと話している。
これからの道のりやかかる時間などだ。

ベンは答える。
「うまく進んでいます。
あと三日もかからないはずです。とにかくこの森を抜けましょう。そうすると時間を短縮できます。
この先を30キロほど進むと急に吹雪く可能性があります。この辺りに入った渓谷のあたりです。」

イドリスが説明を受けていると急に落雷から強い雨に変わった。

やはり降って来たか…

イドリスは続きそうな雨の中今回の出陣で何が得られるのか考えてみた。

若い騎士たち。イドリスもそうだ。
イドリスは軍を束ねる若き騎士。イドリス自身がまだ
成長が必要だ。
そして挑もうとしている敵は遥かにレベルが上だ。
揺らぎそうな気持ち、恐怖心がないわけじゃ無い。

だが、イドリスは大事にしている言葉がある。

誰でも初めは素人だ。

賢人もかつては学ぶべき事があった。
出来なくても良い。少しずつ何かを掴めたら。
それでいいはずだ。

命懸けだが、賭けるものが大きい方がいい。

一人降りしきる雨を眺めながら考えていた。

ふと、横を見るともう一人眠れないのか雨を眺める男がいた。

「どうした?眠れないのか?名前は?」
イドリスは思わず声をかけた。

青年は、「あっはい。」恥ずかしそうに答えた。
「名はブラットといいます。」
栗色の髪にそばかすが多いのが特徴の青年だ。

年は二十三と答えた。イドリスより年上だ。

「眠りたく無いのです。これからを想像すると緊張しますから。」

全くその通りだ。イドリスも同じだった。
「お前、いや… ブラットと言ったな。死は怖いか?」

ブラットは瞬きひとつせずこちらを見た。




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