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イドリスの物語

第4章 北へ

「はい、怖いです。物凄く。」
静かに答えたブラット。
そして「イドリス様はどうですか?」そう聞かれたイドリスは「ハハハッ俺か。俺はまだ死にたくないな…怖くないと言えば嘘にはなるが、やり遂げていない事がある。まだまだ強くもなりたいし城だって大きくしたい、そして軍を大きくし英雄となり称号も欲しい。だから死にたくないな。」

そう応えるとブラットは真っ直ぐ前を向いて答えた。
「夢ですか。いいですね。羨ましいです。私は強くなりたい願望はないです。ですが妹に恥じない兄で居たいです。
無事に帰ると妹が喜んでくれますから。
必ず無事に帰りたいです。
先はどうなるか分かりませんが必ず戻ると約束しました。」

妹か…兄しかいない俺にとっては妹の存在は分からない。ただ兄が好きだった。憧れていた。上の兄妹を思う感覚は分かる。きっと仲が良いのだろうな。
待っている人がいるから生きて帰るか。
俺も城主として守るものがある。
生きて帰ろう、そして報酬を手にしてもっと力をつけるんだ。今の俺には力が必要だ。得た力をまた次に生かす。

たわいもない会話からイドリスは自分の野望に気付いた。一瞬、呼吸が止まるかのように。だが鼓動は大きくイドリスの中で響いた。
そして隣にいるブラットもまたイドリスにとっては守り抜かなければならない騎士の一人だ。

「相手はこちらよりもはるかに実力のある騎士だ。
この地域で知らない者は居ないだろうな。
だが敢えて挑むのとにした。これからも幾度とある戦争の為に実績を積みたいからだ。」

ブラットは「分かりました。騎士として必要な選択だったのですね。この間の戦争での貴方の活躍ぶりは
目を見張るものがありました。ですから今、心配はしていません。勝利が手に出来るように全力を尽くします。」

「頼む。必ず帰還しよう!!」イドリスはそう答えた。
「明日も早い。休んでくれ。」そう言うと設営されたテントへ向かったブラット。

イドリスも休む事とした。
明日から吹雪くやもしれない渓谷へ向かう。
だいぶ体力を奪われるかもしれない。
険しい道のりとなりそうだ。最悪は到着が遅れるかもしれない。もっと最悪なのは、アーサー伯爵がもうこの世にいないという事だ。しかしそれは神だけが知る運命なのだ。

そう考えながらいつの間にかイドリスは眠りについた。



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