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イドリスの物語

第5章 渓谷

険しい山道を上がる一行。どのくらい歩いただろうか。
急に体に身震いが起きるほど空気が冷え込んできた。
渓谷への入り口は左右に大木が立っている。その木の元で
ずっと昔、英雄と言われた騎士が名も知られていない
若い騎士に敗れたとされる場所だ。
この場所は負けた英雄の魂が留まり行く手を阻むとされている。渓谷が急に吹雪出すのもその為だと。

イドリスたちの様な若い騎士はむしろ嫌われここから先に進めないかも知れない。
大木をくぐると別世界だ。
皆、木の麓で立ち止まった。

これが有名な不名誉の木か。
皆息を呑んだ。
だがイドリスは突き進んだ。こんなところで立ち止まってなど居られない。

「ついて来いっ!!」
イドリスが大きな声で叫ぶと皆、目が覚めたかのように後を追う。

「気をつけて下さい、この渓谷は足元が悪いのは勿論
聞き覚えのない声で何故か自分の名前を呼ばれたり
正体が分からず精神がおかしくなる者がいます。
たとえ名前を呼ばれても、何か聞こえても無視して下さい。」
ベンがそう伝えると、「わぁぁぁぁ‼︎」突然叫び声がした。
皆が動揺し始める。イドリスは「状況を報告しろ、皆剣抜け‼︎」皆は動揺しながら辺りをキョロキョロと落ち着かない。
誰の悲鳴だったのだ?騎士たちの人数も問題ない。
これはひょっとして。噂通りなのだろうか。
一人いや二人とこれ以上進みたくないと言い出した。
呪われて死んでしまうかもしれないと言う者までいた。

うむ、このままでは何かがまた起きるな。イドリスは
アルトとジョシュアと話し込んでいる。
悲鳴は皆にもイドリスにも聞こえていた。

すると一人の男がイドリスに近づく。彼もまた若い騎士だった。「あの…イドリス様ここはこういう噂があります。
自分自身の心の中にある恐怖心が悲鳴の様な幻聴となって現れると。恐怖心のないものには幻聴は聞こえないそうです。
自分には聞こえませんでした。
聞こえた者は恐れる心がある。まだまだ道は続きますから
恐れを捨てなければこの道は進めないでしょう。」
そう伝え終えた男は軽い会釈をして去って行った。
恐れがある限り前には進めないのか。
順調だった道もここまでだな。
しかし恐怖心は誰にでもあるだろう。

だが乗り越えなければ、その為にこの戦いを受けたのだ。
自分が怖いと思うものを整理する必要があった。



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