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イドリスの物語

第5章 渓谷

ミリアもまたジョシュアを好きになっていた。
二人の時間はとても平和で穏やかだった。ジョシュアはミリアとずっと一緒に居られると思っていた。
ある時ミリアの首にあざを見つけた。理由を聞くと
「話したくない、聞かないで。」そう答えると塞ぎ込んでしまった。あんな暗いミリアは初めて見た。気になったジョシュアはミリアと別れてからこっそりミリアの跡をつけた。
歩いてどのくらいか。15分ほど歩いたあたりにミリアの自宅があった。ミリアは家に入るなり「どこ行ってたんだ‼︎早く家の仕事をしろっ」男が怒鳴る声が聞こえた。
イドリスはすぐにわかった。自分と同じだ。
ミリアもある男から苦しめられていた。
なのにミリアは一言もジョシュアに話したことがなかった。
ジョシュアは気づかなかった。
自分のことで精一杯の自分に腹が立った。
「ミリアを助けないと…」
そう強く感じたジョシュア。ミリアとどこか遠くに行けたら良いのに。もっと力があったら良いのに。悔やんでも何も変わらない。
しかし、願いは叶わなかった。
約束通りの時間にいつもの場所でジョシュア待っていた。
でもミリアは来ない。
急いでジョシュアはミリアの家に向かった。
すると玄関ドアは空きっぱなしになっていた。
中には誰も居なかった。部屋の家具が倒れ、めちゃくちゃに荒れていた。
すると通りかかった女性が「坊や、どうしたの?ここのお家に何か用?」そう聞かれ 「はい、ミリアに会いに来ました」すると言いにくそうに「あの子はね今朝亡くなったのよ。
父親が酷いやつでね。殴り殺したの。いつも暴力を振るってね。父親は止めに入った男達に捕まったわ。でもあの子は助からなかった。友達を亡くした坊やも可哀想にね。
あの子はほんと笑顔の可愛い優しい子だったよ。」
そう言うと女性は去っていった。
ジョシュアはもう何も考えられなかった。
もうミリアに会えない。。。もう会えないんだ。
その日ジョシュアは帰らなかった。一人ミリアの家に座り込み一睡もせず夜が明けた。
無気力のままなんとか歩き出し自宅に向かった。自宅に着くとまたあの男がいた。酒の匂いが立ち込めていた。
ジョシュアを見るなり「おい、ガキッお前の母さんはもうお前と暮らさないってよ、出ていけ。これからは俺と暮らすからよ」
ジョシュアの中に途轍もない怒りと憎しみが湧いてきた。

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