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イドリスの物語

第5章 渓谷

だが今でもヘンドリックの影に怯えているジョシュア。
ヘンドリックの声や息遣い、受けた心の傷は深く
はっきりと覚えている。そして消えない。
自分に襲いかかってくる夢も見る。

ヘンドリックにうなされるジョシュア。
ジョシュアを起こそうとイドリスは必死に肩を揺さぶる。
「起きるんだ、しっかりしろ‼︎ジョシュア‼︎」
ジョシュアはゆっくり目を覚ます。
イドリスの顔を見るなり「わあああ」そう叫ぶと我に返る
ジョシュア。よかった。目を覚ましてくれて。
安堵するイドリスとアルト。

そしてジョシュアが目を覚ますのを皮切りに次々と騎士達が目を覚ます。
皆、衰弱しきっている。ジョシュアは周りを見渡した。
すっかり元気のない一行。自分も疲れ切っていた。
心の闇を感じた瞬間だった。そしてジョシュアは過去と向き合わなければならない。殺したことは後悔していないが
満足もしていない。
そして母とも二度と会えない。後悔が渦巻く。
そしてイドリスとアルトに全てを話した。
壮絶な生い立ちにイドリスは言葉を失う。
アルトは薄々勘付いていた。ジョシュアは親友だ。
全て受け入れ支えていく覚悟があった。
そう伝えた。笑みが溢れるジョシュア。

「それよりも早くこの渓谷を抜けたい。
何かいい手はないのか。」とイドリス。

するとベンが「噂では破れた騎士の墓地がこの近くにあるそうです。この渓谷は呪われていますから誰も近づきもしませんが、その墓を掘り起こし火を放ち焼き払うことで解き放たれると言ったこの地の言い伝えがあります。」

やるしかない。イドリスはここで立ち止まれない。
ベンの案内で騎士の墓の前まで辿り着いた。

騎士達は恐る恐る墓を掘り起こす。
すると自分の首を抱えた骸骨が現れた。最後は首を切り落とされたと伝えられている。
大事そうに首を抱えているかのようにも見えた。皆青ざめた。しかし戦場はもっと悲惨だ。これで終わりにしよう。

イドリスの一言で火を放った。すると「ぎゃーーーーっ」
と言わんばかりの悲鳴のような声と共に焼かれていく。
炎は高く上がり燃え続けた。

するとあたりが明るく光が差し込み始めた。

まるで霧が晴れたかのようにイドリス達の足元を照らす。
出発しよう。イドリス達は歩き出した。
そして不思議なことに渓谷は全く吹雪かなかった。
一時足止めがあったが、渓谷は問題なく登り切れた。

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