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イドリスの物語

第3章 イドリスの城

「イドリス様は何を考えてらっしゃるのか。早く落ち着いて頂かなければ安心出来ませんのに…」ヨゼフは願う様に一人
呟く。二人のやり取りに唖然とするアルトとジョシュア。
「失礼致しました。入浴のご準備は済んでおります、お着替えは後ほどお持ち致します。ご夕食はイドリス様とお召し上がり下さいませ。再度お呼びに参ります。」
案内された部屋でそう伝えるとヨゼフは会釈して去っていった。
ちょうどその頃急ぎの便りが城へ届けられた。

便りはある城主より若く優秀な騎士を募るとあった。
急を要し、すぐに出兵を必要としているとの事だ。
報酬も今までの出兵で一番と言っていい額である。

城の一部と城主の資産の半分を分け与えると書かれていた。

ヨゼフもイドリスも驚きを隠せない。
その城主の名はアーサー・クロムウェル。

アーサーは暴君だった。
かつては英雄と称されるほどの騎士であり沢山の勝利を収め所有する資産はその地方で一番でもある。
その城はイドリスの城から北に300キロほど下がり渓谷の奥深くに存在しとても近付ける様なところではなかった。
雪は年中溶けず険しい岩をいくつも越えなければならない。かつて欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れてきた
アーサー。
しかしそんな男も良き夫、良き父でもあった。
だが第一王妃と愛息子をある事故で亡くした。
彼が変貌し始めたのはその頃からである。
二番目に迎えた王妃はアーサーと性格が合わず目を盗み浮気を繰り返した。アーサーは自らの手で王妃を殺害した。
その出来事は瞬く間に国中に広がった。にも関わらず
第三の王妃がアーサーの元にやってきた。
この王妃は第一皇子と第一王妃をクロムウェル家に齎した。子供たちはまだ小さく城を継ぐのもまだ先の話となるはずだ。
その状況を利用しアーサーの腹心が奇襲を掛けた。
その男はアーサーをよく知り、城の造りにも詳しく勢力も実力も今のアーサーより遥かに上だ。
まさに飼い犬に手を噛まれたアーサーは城の一番上の塔に子供たちと王妃と僅かな家来と立て籠った。
家来が秘密裏の通路を使い、兼ねてからの戦争での評判を聞いていたイドリスへ助けを求めてきた。

なぜ遠く離れたイドリスへ便りが届いたのか。
それはイドリスの父と深い関わりがあった。

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