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幸せな報復

第19章 畑野浩志の観察

 恵美は浩志の言葉を聞いて天にも昇る気持ちでうれしくなった。今まで幾度となく異性から告白をされて来たが、浩志の今の言葉にこれほどうれしい気持ちになったことは初めてだった。彼と友だちになれたことがうれしい。彼女は心からそう思った。自分の中に異性に対する愛情がわき起こったとしか考えられない。そう、友情とは違う感覚だ。特別な愛情を感じた。一目ぼれとはこのことか、と今実感した。彼といい、彼の父親といい、自分の心と体はこの親子に先天的に引かれてしまう。どこにでもいる親子に見えるけれど、二人に引かれる。なぜ、今まで何も感じなかった。
「どうしてこんなにもこの父子に引かれてしまうの……」
 彼女は成人した自分の体に何か異変が起きた、のではとしか思えなかった。大人の女に体が成長し、心と体も変化した。恵美にはこの親子に対する突然すぎる特別な愛情の芽生えに戸惑った。何か愛情を感じさせる力が自分の体の深いところから生まれた。
 それとも、だれかの呪い、念力、法力とか。まさか、今の時代にそんな非科学的なことは考えられない。とにかく、この父子とこれからたっぷり、まったり、心と体の関係を深めていけば分かる。彼女の心と体は未来を考えるとまさに天に昇る気持ちだった。
「うれしい」
 そうつぶやいてから彼女はにやりと笑った。
 大学4年生、浩志とは関係を深めるのに都合良く卒業研究がある。彼女は浩志を知るため同じ研究室に入ることにした。
 浩志と同じ研究室に入った恵美は、常に浩志の動向を観察した。彼女は教室では彼を盗み見たり、教室から出る彼を追って尾行したりもした。それなのに、彼は気付きもしない。つまり、彼は私がこれほど彼に気を掛けているというのに、彼は大学のマドンナと言われる自分の存在をほぼ意識していない。彼はわたしに興味がない。
「あいつ、なんなのさぁー」
 浩志を見つめる彼女は歯ぎしりするほど浩志が憎らしくなってきた。彼の動向を観察したり、尾行したりだれが見ても危ない女だ。
「わたしって、こんなフツメンのどこが気になるの、やっぱり一目ぼれ? 彼のことを何も知らないのに? こんなことがわたしにもあるんだ……」

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