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幸せな報復

第19章 畑野浩志の観察

 彼女の全身に気を失いそうなくらいの高揚感がみなぎった。やがて、彼女は正気を取り戻す。すると、彼女ははらわたが煮えたぎり怒りのエネルギーで体が熱くなる。彼女は地団駄を踏んだ。
「ぁあー どうしてしまったの? あたし…… こんな体になって」
 彼女は勘太郎に日常を狂わされた、という思いが強くなる一方だった。正気を取り戻すたび、彼女は彼への報復プランを何度となく再考することを日課とするようになっていった。また、それが楽しみでもあると気付くと余計自分のていたらくで、怠惰で、ふしだらな思考と体を嫌悪し、復讐心を燃やす。一日の全て、心と体がこんな状態で心臓が破裂しそうで苦しかった。
「こんな状態を長く続けたらあたしが壊れてしまう……」
 彼女は学生の頃から受ける痴漢行為に嫌悪していた。だからこそ、痴漢するものは得意の武術でねじ伏せ、警察に突き出すことに誇りを持ち、自分のように武術の心得のない弱い女性の被害者を作らせない、という社会貢献に誇りを持っていた。犯罪者といえども暴力で相手をねじ伏せる行為に愛を与えることを信条にしている彼女には矛盾を感じ、正しい行為と思いながらも己の行為に嫌悪を抱いていた。痴漢行為は犯罪だ、と即座に悪と決めつけることは正しくないのではないか、と思い始めている自分を感じていた。
「いや、いや、痴漢行為は絶対犯罪でしょ?」
 彼女は痴漢行為が正しい訳はないと即決するが、直ぐに疑問を抱く。なぜなら、彼女は彼にだけは触ってほしい、と彼に痴漢行為を望んでいた。犯罪行為は許せない。しかし、自分の場合、許せる。彼にだけなら痴漢をしてほしい。彼女の頭は痴漢行為を正か悪かで逡巡した。
「世間には正しい悪行がある、なんて、こんな考えは異常だわ」
 当然、彼女には結論が出るが、直ぐにその結論は否定された。いつも同じだ。だから、彼女はいつも苦しかった。母・義美に悪はいけない。いけないことはやってはいけない、と教育された。それを暴力で従わすものがいる。だから、暴力には暴力で立ち向かわなければならない。だからこそ、そのため、格闘技を習うよう母から言われた。

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