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幸せな報復

第19章 畑野浩志の観察

 心中で泣き叫ぶ恵美はもんもんとした状態がこれから続けば自分が先に浩志をレイプしそうになり心配だった。彼女は週刊誌の見出しを頭に描く。前代未聞学園のアイドル、同級生男子を強姦か。
「もう、こんな毎日嫌だわ」
 彼女は頭を振って邪気を払おうとした。かつて痴漢男を現行犯逮捕していた美女が強姦か、など次々と悪い記事が脳裏に現れては次の記事に差し替えられていく。いずれこのままの生活が続けば、自分が性犯罪者になってしまう。そうなれば、浩志にも勘太郎とも絶縁されるに決まっている。
 彼女はそうはならないよう絶えず自制して生きなければならないことに戸惑った。
「自制して生きなければ犯罪者になってしまうわ…… 一体、わたし、これからどうなるの?」
 浩志と勘太郎親子を思い浮かべるだけで変態的な妄想をしてしまう。頭と体の中に恐ろしい小アクマが住み着いたような気がしてならない。そんな自分に嫌悪していたが、現実、恵美は浩志のそばに寄ると匂いを嗅いで穏やかになれた。浩志の匂いを吸うと幸せな気持ちになれた。幸せになればそれ以上の幸せを得る必要を感じなかった。
「そうだわ、匂いはわたしの救いよ」
 この事実に彼女は気が付いた。浩志に近づき体臭を嗅ぐと変態の恵美は消えてくれることに気が付いた。浩志の隣に座っていたい、と思うのは防衛本能がはたらくからのではないか。素の自分でいられることを本能が気が付いたからに違いない。
「でも、このままではいけない。匂いだけで甘んじては駄目よ。もっと、貪欲にいかないと…… ここはやっぱり自分から積極的にレイプしかないわ…… いや、駄目よ、そんなことできないわぁ、犯罪者よ」
 浩志の匂いを嗅いでいないときの恵美はけだもの族の血が出たり引っ込んだり不安定だった。
 彼女の思い描く親子に罠を仕掛け犯罪者にして将来的には性奴隷にする計画はなかなか進まない。その前に自分が犯罪者になってしまうだろう。
「親子と強い絆を持つ何か決定的なアイデアを見つけないと、大学を卒業したら浩志たち親子と縁が切れてしまうわ」
 恵美は二人から離れることなんて絶対考えられなかった。自分の中の自分が知らないけだもの族の血を押さえ込まねばならなかった。

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