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幸せな報復

第19章 畑野浩志の観察

 浩志は突然変異のけだもの族として人間界に誕生し好青年に成長した。彼は2歳で死別した母の愛情を受けずとも、狼男・勘太郎により愛情を注がれまっとうな人間に育てられてきた。彼はそういう最も人間らしく生きようとする父に育てられた。
 つまり、浩志は清く生きようとするけだもの族と狼男の夫婦から人間らしい愛情を注がれていた。
 しかし、けだもの族の人間化を阻止するハンターによって彼が2歳の時、母は殺されてしまう。だから、彼が2歳までの母しか記憶していない。愛情を息子に注ぐため必死に生きようとした母が、殺されたことを彼は知らない。ただ、母が浩志を育てられず他界した無念さは、自分を育ててくれた父を見ることで想像できた。父は息子によく言った。
「お母さんの人生までおまえが生きるんだ」
 その言葉を父から聞くたびに浩志は思った。
「僕は2歳までこういう両親に育てられてきた。二人きりではないね、父さん、僕の中には母さんがいつも生きている」
 浩志はそう思いながらその面影を隣に座る恵美に見ていた。彼は恵美に会ったときから無条件で親近感を抱いていた。
 そんなことを思い描いていた浩志の隣で、恵美は自分の何が好きで近づいてくるのか恵美の考えが分からないでいた。だから、浩志には恵美に母が乗り移っているとしか思えなかった。
 しかし、そんなオカルトまがいなことが起きる訳はない。恵美は学園のアイドルなのに、もっといい男がいるというのに恵美が隠れて自分に注いでくれる異常な愛情に彼は戸惑っていた。彼女の目的が分からないが、こうして自宅までやってきて二人きりでいてさかんに僕を襲わせようとして挑発してくる。
「時々、僕に分からないように僕の匂いを嗅いでいるみたいだ……」
 そう言う彼は恵美が日常的に隠れてする不可思議な匂いを嗅いでくる行動をなんとなく感じていた。浩志は学園アイドルの恵美が屈託なく笑う姿を見つめては恵美の裏の顔に問い掛けた。
「きみは僕にある何を求めているの?」
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