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幸せな報復

第19章 畑野浩志の観察

 浩志は心中でそう思いながら隣に座る恵美に顔を向けると彼女の顔がすぐそばにあり驚いた。彼は恵美が顔を近づけていることを予想していなかった。彼女があまりに接近していたのでどうしてなのか状況が良く分からなかった。彼は驚きながらもこの異常な状況を分析しようとした。目の前の彼女は鼻を向けて目をつぶっていた。彼女の鼻頭に彼の鼻がもう少しで触れそうだった。顔を向けた浩志の行動に彼女も予想していなかったと見えかなり驚いて目を大きく開いた。
「や、や、やだぁー ひろしくーーーん いきなり顔を向けたりしてぇーーー びっくりするじゃないのぉーーー」
 彼女は偶然を取り繕うように言ってからあわてて顔を離すと姿勢を整え両手を膝の上に置いて呼吸を整えているのが分かった。真っ赤になっていた彼女の頬はそのままだったが、呼吸が整うといつもの愛らしい笑顔に戻った。
「ふぅーーー 鼻が当たっちゃったわねぇーー あー 危うくさ、キ、キスしちゃうところだったよねぇーー あー驚いたわぁー 鼻で良かったよねぇ」
 そう言って、また、頬をさらに赤くした。いつも堂々としていた彼女が浩志には可愛く見えた。
「わ、わたし、何やっちゃってるのかしらねぇーー」
 そう言った彼女はあわてるようにミニスカートの裾を引っ張って太ももを隠そうと伸ばしていた。もちろん、スカートは元々短いから伸びることはなかった。
「君が心配しているキスも鼻もくっついたりはしていないから安心するといいよ」
 浩志があわてている恵美に落ち着くように断言した。
「えぇっーー うっそぉー あれほどそばにいたのに何もなかったわけぇー そんなことないでしょぉー ねえぇー 浩志くんのあそこは、今、すごいことになっていたりしているぅかしら? きょうのわたしのスカート短すぎるしねぇーー」
 そう言って彼女はこの状況を茶化すように必死になって支離滅裂な恥ずかしいことを平気で口走っていた。
「ねえ、きみのお父さんはいつも仕事なの? きょうも遅い帰宅なのかしらねぇー 浩志くんはお父さんとずっと二人で暮らしてきたのぉ? お母さんのことは覚えていないのぉ? このまま二人きりでどうなっちゃうんでしょぉー」

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