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幸せな報復

第25章 御手洗貞子

 沢子と御手洗貞子は、年齢が近いこともあって馬が合った。

 沢子は御手洗邸に逃げてきて以来、屋敷の外へ出たことがなかった。沢子と義美は、貞子の厚意で離れの茶室を借り、身を隠すように暮らしていた。

 宗男は、事あるごとに沢子へ釘を刺した。

「海星は、粗暴で腕力が強いだけの男じゃない。ずる賢い知恵者だ。悪知恵を働かせて前の支配者に徐々に近づき、ついには彼を陥れて、自分が街の支配者になった男です。

 あいつには、選りすぐりの部下がいる。あなたが屋敷から一歩でも外へ出れば、手下に見つかって、またひどい仕打ちを受けるに違いありません。

 だから、絶対に屋敷から出ないでください。必要なものがあれば、俺に言ってください。あなたのためなら、私は何でもします」

 初めて海星と出会ったとき、沢子は、けだもの族の家族四人を海星に殺された。

 その場で囚われ、引きずられるように海星の屋敷へ連れて行かれた。そして、そのまま座敷牢に放り込まれた。

 あの辛く苦しい日々を思い出すと、沢子の体は震えた。

「ウウウウゥーーー」

 海星から受けた仕打ちが、鮮明によみがえる。

 あのときの絶望が、恐怖となって沢子を襲った。体の震えは止まらず、押しつぶされそうになる。

 宗男は沢子の異変に気づくと、自分のことのように胸を痛めた。

「ごめん……また、思い出させてしまったね」

 宗男は、声を落として続けた。

「大丈夫。屋敷の中に隠れていれば安全だ。俺がついているから……」

 必死に励まそうと、宗男は沢子の背中を包むように抱いた。

「ウウウゥーーー」

 沢子は体をさらに丸め、小さくなった。

「沢子さん、つらい過去を思い出させるようなことを言ってしまいました。でも、俺は君を絶対に海星から守ります」

 宗男は、震える沢子の体をそっと抱きしめた。

 その言葉と抱擁は、毎日のように繰り返された。

 二人のやり取りを、離れたところから御手洗貞子が心配そうに見守っていた。

 貞子は、弟のように思っている宗男から、沢子母娘を助けてほしいと頼まれた日のことを思い出していた。

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