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幸せな報復

第25章 御手洗貞子

「二人は、自分で行動できる大人なのよ。あの人たちの人生を、こんな束縛の中に閉じ込めておいていいはずがないわ。
 あの母娘の人生を、このまま終わらせてはいけない。
 宗男は、これから二人をどうするつもりなのかしら……。
 もう、宗男だけに任せておけないわ」

 貞子の懸念は、小さな茶室で暮らす沢子母娘を見かけるたびに募っていった。

「こんな毎日を、いつまでも続けさせていてはいけない……」

 貞子は意を決すると、茶室へ向かって歩き出した。

 声を掛けると、宗男と沢子がそろって戸口から出てきた。

「ねえ、宗男。沢子さんも、義美さんも……このままでいいとは思っていないでしょう?」

 貞子は二人の顔を見つめた。

「義美さんは、もう小学校へ入学する年頃でしょう? このまま茶室に閉じ込めておくわけにはいかないわ」

 宗男はしばらく黙っていた。

 やがて、重いため息をつく。

「貞子さん……今まで何度も説明しましたよね」

「ええ」

「話だけなら、なんとか聞けます。でもね……現実を見たら、そんなものは嘘だなんて言っていられないんです」

 宗男の声が、少しずつ強くなっていく。

「目の前であんなものを見たら……恐怖で正気でいられなくなりますよ」

「でも……」

「貞子さんは、海星の恐ろしい行為を実際には見ていないから、今まで話を聞いても、どこかで信じられないと思っていられるんです」

 宗男は苦しそうに首を振った。

「あの男は、とにかく怪物なんです。あいつにとって警察なんて、屁でもない。ここの警察署長だって、とっくの昔にあいつに脅されて、恐怖で従わされているんです」

 貞子は黙って宗男を見つめていた。

「七年前、沢子さんの家族四人は、あっけなく命を奪われました。血も涙もない……鬼畜そのものですよ」

 宗男の拳が、わずかに震えた。

「あいつは、この街を暴力で支配しているんです。あんな悲惨な事件が起きても、事件として扱われることすらない」

「そんな……」

「俺たちがどんなにあいつに逆らったところで、どうにもならないんです」

 宗男は、吐き出すように言った。

「あいつに支配されたくなければ、逃げるしかない。だから、あのときも……沢子さん母娘を連れて逃げるしか、道がなかったんです」

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