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幸せな報復

第25章 御手洗貞子

 海星の組織力を考えれば、二人の居場所など、とっくに突き止められていてもおかしくない。

 貞子は、平穏な時間が続いていることを少しも疑わなかった。

 そのことを、今になって後悔していた。

「……何か、おかしいわ」

 貞子は一人、考え込んだ。

「海星の組織力があれば、二人の居場所なんて、すぐに見つかってしまうはずよ……」

 そして、宗男のことを思い出した。

「宗男は、あれほど沢子さんを愛していた。『助ける』って言っていたのに……」

 貞子の中で、七年間の記憶が次々と蘇ってくる。

「なのに、七年もの間、何もしなかった……」

 なぜ?

 その疑問が、頭から離れなかった。

     *

 貞子は以前、宗男から生い立ちを聞いたことがあった。

「俺の実家は貧しくてな。まともな教育も受けられなかった。だから、ずいぶん悔しい思いをしてきたんだ」

 宗男は、そんな話をしていた。

「学のない俺を海星さんが引き上げてくれた。だから、俺はあの人の恩に報いたいんだ」

 当時の宗男は、海星を「兄貴」と呼び、慕っていた。

 そのことを、貞子はよく覚えている。

 それなのに、今では――。

 宗男は海星を「あいつ」と呼ぶ。

 いつから、二人の関係は変わったのだろう。

 そして、なぜ宗男は、沢子を助けると言いながら七年間も動かなかったのか。

 宗男はこの七年間、毎日のように「逢瀬」へバーテンダーとして出勤していた。

 ときどき店に顔を出す海星とも、普通に会話していた。

 もちろん、海星が沢子にひどい仕打ちをしていることも、宗男は知っているはずだった。

 それでも、何も起こらなかった。

 店では、宗男の作るカクテルは評判がよかった。

 店の外でも、女の子への気配りができる男として知られていた。

「宗男ちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど」

 そう声をかければ、嫌な顔ひとつせず頼み事を聞いてくれる。

 そんな気さくな人柄もあって、宗男は店の内外で評判のいい男だった。

 ――だからこそ、貞子には分からなかった。

 あの宗男が、なぜ七年間も何もしなかったのか。

 そして、なぜ今になって、自分はそのことを疑問に思い始めたのか。

 貞子は、胸の奥に芽生えた小さな不安を、消すことができなかった。

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