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幸せな報復

第11章 恵美の訪問

 そして、彼女の欲望は湧き上がり、それにともない未来に向かう幸せな展望がひらめいた。
 彼女は同じ幸せな顔を並べてみたらどちらがより幸せになれるか、比較したくなった。贅沢な願望だ。「両方見たら幸せ倍増パワーで体が破壊され死んでしまうかもしれない。とても危険すぎるわ」と彼女は心中でにこやかにつぶやく。そんなことを妄想する彼女は当初の目的どおり痴漢男に復しゅうすることが幸せに通じることを知った。
「毎日、二人の幸せな顔を見たいわ」
 彼女に乗り込んだ魔性の心が幸せの顔を欲した。幸せに相性というのがあるのか。二人の父子は恵美にとっての歪曲した幸福感に取り込まれていった。

  *

 大学4年生に進級した浩志は突然、1年の時から大学のアイドル的存在だった恵美と肩を並べ歩いている。3年前の彼には信じられないことだった。それだけに足らず、今度の日曜日、彼女を自宅へ招くことになっている。恵美を遠い存在に感じていた彼にはこれもまた信じられない現実だった。
「だれかの陰謀なの? それとも、僕に神様が舞い降りた?」
 浩志は独り言を口にした。陰謀でも神様が舞い降りた訳でもない。浩志は恵美に潜む魔性の虜になっただけだ。もちろん、彼は未来永劫、恵美が魔性と知る日は来ない。恵美は浩志に秘密を作ることでさらなる幸せを感じた。
「秘密にするからいいんじゃないの?」
 恵美はつぶやくと同時、父子の幸せスマイルを想像した。

  *

 浩志の大学の期末試験が終了し、いよいよ夏休みに入ろうとしていた。同居している勘太郎と浩志が一日のうちで顔を合わせるのは朝の数分というすれ違い生活だった。浩志は勘太郎が出勤を早くすることになった理由を知らない。

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