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幸せな報復

第12章 始まり

 まさに、若かりし頃の性欲があそこに存在した。仁美と一緒に置いてきてしまった青春を、心と体の結合を、束の間の時間ではあるが共有した。彼女も性欲を受け入れ楽しんでいたはずだ。あの表情が答えだ、と勘太郎は察知した。つまり、この一連の彼の思考は迷惑そうにしている女性の表情を自分の都合のいいように解釈していただけに過ぎない。
 しかし、どんなに痴漢行為を自分の都合のいいように正当化しようと、客観的に見れば痴漢という犯罪であることは明白だ。
 だから、勘太郎は浩志に会わせる顔がなかった。浩志の大切な人の心をもてあそんだ事実は消せない。彼女の心にあの一連の愚行はすり込まれてしまったはずだ。自分の犯罪で彼女の一生を変えた。
 彼はいつものように朝食を作り終えると、その朝は食べずに家を出た。浩志が今度ガールフレンドを連れてくれば、彼女によって己の愚行が明らかにされるに違いない。
 出勤した勘太郎は上の空で執務した。昼に軽く自分の店のサンドイッチを購入したが食べていても味を感じられなかった。今度はいつ彼女を連れてくるのだろう。彼はそう思うと自宅に帰る足が重かった。
 午後7時、昨日はクレーム対応で遅れたから彼女に会わないで済んだ。先延ばしはできない。彼は彼女に謝罪しなければ、と思う。
 勘太郎は自宅の玄関に入るなり靴の所在を確認した。女性の靴はないことを確認しひとまず彼は息を大きく吐いた。
「きょうのところは助かった」
 彼は心の声が思わず口をついて出てしまった。
「お帰りー」
 奥から浩志が顔を出して言うと歩いてきた。
「ただいま…… どうした?」
 帰宅した勘太郎を出迎えるなんてことがなかったので何か緊急の用事があるのかと心配して聞いた。
「きょうはさすがに早かったね…… 彼女、夕食の食材の買い忘れを買いに行っているんだ…… もうすぐ帰ると思うんだ」
 浩志が言い終わると同時、玄関の呼び鈴が鳴った。
「鍵は開いているからはいってぇー」
 勘太郎は体を玄関ドアに向けたと同時、ドアが開いた。

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