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幸せな報復

第12章 始まり

「ただいまぁー」と声と同時に笑顔の女性が立っていた。勘太郎の目の前が真っ暗になった。痴漢した女性だった。
「あぁーー」
 彼女が驚きの声を上げて勘太郎の顔を見つめた。勘太郎は意識が飛んでしまいそうだった。次の言葉が怖くて勘太郎は体を硬直させた。しばらく、数秒の沈黙があった。勘太郎はもうごまかせない、と観念した。
「はじめましてぇー 浩志さんのお父さんですよねぇ。今日はお目にかかれてうれしいです」
 彼女の快活な声が勘太郎の耳に突き刺さった。「何を言っているんだ、この子は? 初めてな訳ないこと、直ぐに分かったんだろ?」と勘太郎は言いたい言葉を飲み込んだ。これでは謝罪できないではないか。

「やだぁー 何? あのときのおじさんじゃないの…… やだぁー」と彼女は言いながら持っていたレジ袋を床に落とし体を両手で抱きかかえると後ずさりしてドアに背中を押し当てた。彼女の顔はすっかり嫌悪する顔、そのものだった。その異様な様子を不思議に思った浩志が直ぐに反応する。
「田所さん、どうしたの? 親父を知ってるの? そんなに怖がったりして何があったの?」
 浩志はそう言いながら恵美のそばに駆け寄り体を支える。その後、勘太郎と浩志に体を支えられた恵美が台所のテーブルに座る。恵美は玄関からずっと顔を手で覆っていた。
「ああぁ……」
 浩志が恵美の肩を隣で抱いていた。恵美を抱いていた浩志が勘太郎に顔を向けた。
「父さん、恵美を知っていたんだ?」
「すまん……」
 勘太郎は椅子から立ち上がり、恵美の前に土下座した。その後のことは謝罪してからのことだ、と勘太郎はこのシナリオをずっと思い描いていた。
 それなのに、恵美はまったく勘太郎のことを初めて見るかのように振る舞っていた。勘太郎には信じられない行動だった。電車内であんなに間近に接していた。彼は彼女の体の感触を思い出せるほど触っていたことを改めて思い出す。

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