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幸せな報復

第14章 家族

 大学が夏休みの間、恵美は勘太郎の家を訪問するため、午前中で自分の用事を済ませ、後の時間は自分のための幸せな時間にしたかった。彼女の頭の中は一人の男にこれから報復できる喜びで満ちていた。「あの男はあたしに痴漢をした。また、してくるはず」と彼女は確信していた。電車の時と同じ環境を家庭にも作り男に痴漢をさせる。
 つまり、息子の彼女と知りながら痴漢をさせる。彼は電車の時と同じように家庭でも良心の呵責で悩む。恵美は男の苦悶の表情を想像したら体の芯が熱くなってきた。彼女は男の誠実さを破壊していく。彼は痴漢したときのように野生が表出したとき、極上の笑顔に変わることを知っている。彼女は彼の笑顔を見たい。だからこそ、電車の時と同じ非日常の設定を家庭にも作ってやろうとしていた。それは自分の幸せでもあるし、浩志の幸せでもあった。
 勘太郎の家で会った日を「K再開の日」と報復基準日としスマホにその日を忘れないよう入力した。Kは勘太郎の頭文字だ。
「7月8日か? 計画通りには行かないものね…… 乙姫と彦星のように七夕の日に再開とはならなかったけれど…… ま、いいわ…… きょうは9日…… 報復決行2日目ってところでまずまずの滑り出しね……」
 彼女は姿見の前でつぶやくと部屋着用のスエットを脱ぐと下着だけの姿のままになり姿見に映る全身を見つめた。「彼に触られた箇所を順に思い出すたび、体の芯がゾクゾクしてくる……」つぶやくと両腕で体を抱きかかえその場にしゃがみ込み体を小さくした。「フフフッ……」と含み笑いをしながら彼女は少しずつ顔を上げていった。姿見に映った顔は満面の笑顔に変わっていた。彼女は静かに立ち上がり髪を手のひらで整える。「心を込めた報復をこれからたっぷり、まったり、感じてね……」と言うと彼女は目を閉じ想像した。

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