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幸せな報復

第15章 接近する恵美

「いや、いや、いけない、絶対にいけない」
 勘太郎は心の中で恵美の顔を見つめながら恵美に対する感情が突然抑制された。勘太郎の脳内で、人間の理性の欠片が獣という野生の芽を押し込もうと働き出した。獣を隠して人間として生きた20年間、種族はだれもが獣を封印してきたのだ。その封印を今突然解く訳にはいかない。獣の掟を破ることになる。
「ああ、なんてことだ…… 20年前、俺は生まれ変わったんだ…… 人間に…… だから、恵美さんは僕ではなく浩志と幸せにならなければいけない…… あいつは生まれつき人間の特性しか体験していない。だから、獣の血を記憶から呼び起こすことはないんだ。恵美さんもまだ獣にはなっていない、俺が消えれば人間として生きられるはずだ」
 そう言って勘太郎は握っていた恵美の手を離した。恵美は理性によって抑制されてしまった勘太郎の手をもう一つの手で握りしめた。
「お父さん、わたしってなぜか獣のような力を人間でも出せることが分かってきたのよ、さっきも言いましたけど大学のダンスサークルやいろいろな場所で能力の出し方がなんとなく分かってきたわ……」
 彼女は握った勘太郎の片手を自分の口の前に持っていき指の先を口に含んだ。
「恵美さん、何をするんだ、止めるんだ」
 勘太郎が恵美に握られた手を引き戻そうとしたが、恵美は彼の手を握りしめ人差し指を下唇に付けた。その指の根元に舌の先をあてがった。彼女はそれから指の根元から指先に向かってゆっくりなめた。言葉で拒否を言い続けていた勘太郎は恵美の力に抵抗できず身を任せてしまった。
「うっうう、恵美さん、俺はきみに抵抗できない…… これはきみの獣としての能力なのか? だめだ…… だめだ、きみは浩志と幸せになってほしい」
 勘太郎は口ではいけないと言ってはいるが体が恵美を欲した。恵美の柔らかな舌が勘太郎の指をなめ上げるたび快感が彼の全身をくまなく駆け巡った。
「うぉーーーーーーぉーー」
 突然、彼は指に、快感と頭の芯を直撃する痛みが走り悲鳴を上げた。恵美は人差し指を口から外してじっと勘太郎の息づかいを注視した。数秒後、勘太郎の息づかいが安定するのを確認した。

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