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幸せな報復

第17章 双子誕生

 沢子は双子を出産した。仁美と義美と名付けた。仁美は海星に溺愛された。義美は仁美と同じ容姿をしていた。海星は沢子たちけだもの族という種族にとって子どもは一人しか生めない体質と聞かされていたことから二人目の義美が生まれたことに不吉な予感を抱いた。彼は思い込みの激しい性格だったので、一度思ったことは曲げたり断念したりしないから今までどんな困難も乗り越え結果を出してきた。彼には強い信念があった。その直感によりこの町のボスにのし上がった。
「不吉な義美は俺といないほうがいい。ここには置けないな……」
 彼は義美を自分の腹心の部下に託すことを決めた。彼は芝居を打つことにした。沢子を慰み者として扱ってはいたが、いつしか沢子を信頼するようになっていた。彼女の考えは分かっている。沢子は義美を自分の手から放したくないはず、と確信していた。海星は沢子を呼びつけた。
「その子は不吉じゃ、この屋敷の古井戸に捨ててこい」
 彼は敷地の隅にある古井戸に捨ててくるよう沢子に命令した。
「なんてこと、言うの、このけだもの、わたしを毎夜、慰み者にしてきて、まだ、わたしへの復讐をやめないの? この人でなし!」
「ふふふ、おおいに結構、俺は人でなしさ、おまえも人でなしだろ? おまえたち種族は男を監禁しているのだろ? ひどい種族だ…… そんなひどいおまえを今まで生かしてやっていたんだぞ。おまえも一緒に古井戸に捨ててもいいのだぞ」
「こ、このけだもの! おまえなど地獄に落ちるがいい」
 海星はけだもの族だった人でなしの沢子を上回る人でなしだった。沢子は海星から逃れるように走り、寝室にいる義美を抱きかかえた。そばに寝ていた仁美を見つめた。
「仁美、ごめんよ…… おまえはあいつにかわいがられると思うから置いていくよ」
 沢子は寝ながらケタケタ笑う仁美に別れを告げると、義美を抱いて屋敷を脱出した。
 海星は沢子が屋敷の門から出ていく後ろ姿を遠くから見ていた。沢子と義美を追うことはしなかった。
「沢子よさらばだ…… 俺はこれからは仁美がいるから楽しみだ。この子は俺の継承者になるよう育て上げるから安心しろ」
 海星はまだ乳飲み子の仁美を見てにんまりと微笑んだ。

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