クローン人間は同じ夢を見るのか 〜オルタナティブ・キイ〜
第11章 眠り姫
その夜は猛吹雪となった
前線部隊は村の学校を接収しており、つかの間の休息を取っていた
モビルスーツは移動用トレーラーに寝かされシートをかけられていたが、それも雪に埋もれつつある
いくつかのジープが稼働しているのみでヘリもすべて身動き取れない状況だ
ハルフォードが使っている書斎は校長室のようでいくつかの本を手にして目を通したものの、つまらん、と言ったふうに元の棚に戻す
そのとき書斎の扉がノックされた
入室してきたのは部下のオーウェンだ
「お休みになられないので?」
「部下がひとり居残らせる羽目になったからな、私だけ休むわけにいくまい?」
オーウェンが熱いコーヒーを手渡す
「部隊長が休まないと部下はなおさら休めませんよ? それに彼には支援チームを送ったではないですか、彼らも軍人です、悪天候で音を上げるような男はこの軍には居ませんよ?」
しばし沈黙が続く
ハルフォードは何か考えているようだ
ようやくハルフォードが口を開いた
「オーウェン、キミは地上部隊のトラビスを知っているか?」
「いえ、存じ上げません!モビルスーツ部隊ならともかく地上部隊の兵士の顔までは覚えきれませんから、それに今はアゼルバイジャン軍と混在してますので……」
「彼は最後に“アレを知ってるから残る”と申し出た、諜報の出だと……
諜報出身の者が歩兵に紛れて何をしている?」
オーウェンははっと目を見張った
「アルメニアのスパイでしょうか?」
「私にもわからん、トルコ軍かもしれんしアゼルバイジャンかもしれん、どこかしらからネズミが紛れこんでるようだな……
案外、月から降りてきた者かもしれんな」
「……月? アナハイム・エレクトロニクス社ですか? あの武器商社の???」
「犬の嗅覚、猫の視覚、ネズミの隠密……、
やはり前線は楽しいな、オーウェン?」
ハルフォードは苦笑していたがオーウェンは笑えなかった
アナハイムは戦争屋だ
彼らに利用されてはたまらない
俄然オーウェンは張りきらざるを得なくなった
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