
クローン人間は同じ夢を見るのか 〜オルタナティブ・キイ〜
第3章 グリメット城
数時間後、ホテルの正面玄関にホテルの従業員が全員ズラリと並んでグリメット家一行を見送った
「支配人、色々とご迷惑をおかけしたわね
来年もお世話になると思いますから宜しくね」
アリッサのひとことに年配の支配人は恐縮しきりであった
小型のシャトルに乗り込むとアリッサと9人の娘たち、そしてラーズ・ローズ軍曹はホテルの上空を覆っている巨大な飛行艦船へ戻るため上昇していった
ガルダ級大型輸送船はもともと4機が製造され、地球上の制空権を握っていた空飛ぶ要塞だ
ガルダ、アウドムラ、スードリ、メロゥドはそれぞれ移動母艦として戦場へ赴いては空から地上を制圧していた
グリプス戦役やネオ・ジオン抗争においてそれらは破壊されてしまったが、その利用価値は誰もが認めるものであり戦後も量産されていった
イギリスの貴族グリメット家の私設軍隊もその後継機を手に入れ、敵対する組織を排除していった
ラーズからすれば敵対する母船である
“まさか俺みたいな一兵卒が敵のアジトに乗り込む羽目になるとはね……”
ラーズにとって気を許せるような状況ではないが、周りの雰囲気はそうでは無かった
シャトルの中でも9人の娘たちはぎゃあぎゃあと騒ぎまくり、やれ私の服を返してだの、そのお菓子頂戴などラーズの緊張などつゆ知らず、いつものように大家族の日常を過ごしている
「さぁさぁ、みんな!そろそろ我が家に戻りますよ!お父さまにしっかり挨拶してね」
アリッサはパンパンと手を叩き娘たちを統制する
娘たちもアリッサを本当の母親のように思ってか「はぁい」と返事してそれぞれが席についてシートベルトを固定した
飛行艦船「グリメット城」の格納庫に滑り込んだシャトルは多少揺れながらも無事に帰還できた
「ラーズ君、当主からも御礼に伺いますからちょっと待っててね」
シャトルが固定されたブザーを鳴らすと9人の娘たちとアリッサは立ち上がって降りていった
ラーズは窓の外を見る
格納庫には数々の戦闘機が並んでいる
モビルスーツではないが、ヒト型の頭や腕が生えている
“フリューゲルってやつか?
モビルスーツの空戦特化機体だよな?
そりゃそうか、空飛ぶ要塞なんだからモビルスーツよりもフリューゲルタイプのほうが理にかなってるよな”
敵の格納庫を見ているという不思議な感覚だった
