クローン人間は同じ夢を見るのか 〜オルタナティブ・キイ〜
第7章 バルケシルの炎
ラーズとローズは階段を登って狭い裏路地のようなところを歩いていた
ここは坂の斜面にひしめき合っている古い密集地で、観光者よりも地元民のほうを多く見かけるようなエリアだ
ひとつの古ぼけた建物に入る
「予約してたんだけど……」
無口そうな年老いた主人は黙って宿帳を指さす
ラーズが慣れた素振りで記帳しているあいだローズはまわりを見回しずっとキョロキョロしていた
ラーズの横顔に顔を近付ける
「……ねぇ、ここホントにホテルなの?
普通の古い家じゃない? 民宿なの?
わたし大きなエントランスがあって庭に噴水があるような所しか泊まった事ないんだけど……」
「呆れた奴だなッ!?俺がそんな所に連れていくとでも思ってたのか?
それにここは俺が入隊する前から使ってた常宿さ、ちゃんと熱いシャワーが使える貴重な所なんだぜ?」
ふたりの会話を黙って聞いていた宿の主人がぼそりと口を開けた
「……悪いが湯は不安定だ、ジオンの小惑星のせいでね……、まぁウチに限らずどこも同じようなモンだが……、運が良ければ熱いのが出るだろうさ」
「………」
「………」
ラーズは固まり、ローズはため息をついた
部屋は4階、狭くて急な階段を登って部屋に入る
扉の施錠は3重にロックできる
「ほら、外を見ろよ!海が見えるぞ!
俺はここからの景色が使える大好きなんだ」
路地裏の斜面の上位に位置するためか他の建物の屋根を見渡せ、その向こうには海に浮かぶフェリーやタンカーが見えた
「そんなことより二段ベッドじゃないッ!?」
「文句言うなよ、観光客に扮した隠密行動なんだぜ?部屋を分けてたら怪しまれるだろ
まぁ、文句言われるとは思ってたけど」
するとローズはパアッ!と明るい笑顔になった
「文句なんか言ってないわッ!すごい!
二段ベッドなんて初めて使えるのよ!
夢が叶ったわ!
私が上でいい?」
なんとも低い夢なんだな、とラーズは思ったが何も言わなかった……