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メダイユ国物語

第2章 ラバーン王国のプリンセス

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 城の中心部である塔を、四人は最年長のグレンナを先頭に昇っていた。エレベーターが設置されていたが、不測の事態に備え、彼女らは非常時用の階段を使った。

 そして国王夫妻と王女マレーナの私室のあるフロアに到着した。

 グレンナが扉をそっと開いてフロア内を見回す。安全を確認した彼女の合図で、四人は廊下に出た。そこは不自然なくらい静まり返っていた。

「まずはお父様たちの部屋へ」

 マレーナは先頭のグレンナに小声で耳打ちする。振り向き、声もなくただ頷くグレンナ。四人は周囲の気配に注意を払いながら歩を進めた。

 塔内部の回廊を、足音を立てぬようゆっくりと歩く。回廊の床や壁には、所々に弾痕や血の飛び散った跡があり、何体かの死体が横たわっていた。死体は見慣れない敵兵士のほか、近衛兵の物もあった。

 いつの間にこんな戦いがあったのか――マレーナは一瞬疑問に思ったが、すぐに理解した。王族の私室のあるこの塔は、外部からの攻撃を想定して特に頑丈に造られている。当然、防音も高い効果を有していた。銃の発砲音などはほとんど外へ漏れなかったのである。

(ウェンツェル……)

 マレーナは先に両親の元へ向かったはずの、近衛隊長である婚約者の安否が気になった。だが死体の中に彼の姿は見えなかった。

(わたしたちのことはもういいから、せめてあなただけでも自分の国に逃げ帰って)

 ウェンツェルは本来、同盟国ノルドゼイユの王族である。

(こんなことになるのなら、もっと彼と話し合えばよかった。……ウェンツェルに、あなたに会いたい)

 マレーナはこの状況になって、初めて自分が彼に好意を寄せていることを自覚した。

 やがて四人は国王夫妻の私室の前へやってきた。単純に国王の私室と言っても、執務室と寝室、それに専用の浴室と手洗いもあることから、廊下には四つの扉が並んでいる。娘のマレーナは当然、どの扉が何の部屋であるかは把握していた。彼女は無言で手近の扉を指さした。金属のプレートには『寝室』の刻印があった。三人の侍女が頷くと、マレーナはドアノブをゆっくりと押し開いた。鍵は掛かっていなかった。窓のカーテンが開いているのか、照明は点いていないようだったが、まだ陽が高いため日光の明かりが室内を明るく照らしていた。

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