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メダイユ国物語

第2章 ラバーン王国のプリンセス

 人ひとりが通れるまで扉を開き、マレーナが室内に足を踏み入れた――その直後だ。

 何者かにより、室内側から扉が完全に開かれた。マレーナは何が起きたのか、にわかには理解できなかった。

 すると、室内から扉を開いた人物が四人の前に姿を現した。見たこともない……いやどこかで見たような男だった。顎から頬にかけて髭を蓄えており、着衣は上等な物に見受けられた。彼は四人を舐め回すように見ると、先頭に立つ王女に向かって口を開いた。

「これはこれは姫君、お目にかかれて光栄です」

 ニヤニヤと口元に品のない笑みを浮かべながら男は言う。

「あなたは何者ですか? 父と母はどこです。答えなさい」

 本当は逃げ出したいほど怯えていたマレーナだが、一国の王女である立場を崩すことなく、気丈な態度で振る舞った。部屋の入口付近から室内の奥を隅々まで見回すが、両親の姿はない。

「まあまあ落ち着いて。こんなところで立ち話もなんですから、こちらへどうぞ」

 と言いながら男は右腕を室内に向けて伸ばした。王女は室内へ進むが、侍女たちはその場に留まる。指示もないままに、勝手に主の部屋へ立ち入ることは、使用人としては許されることではないからだ。

「構いません。あなたたちも入って」

 こんな時まで愚直に決まりごとに従う三人の侍女たちに、どこか心強さを感じながら、マレーナは声を掛けた。

 男の視線から逃れるように、三人も部屋の中央へ移動し、そして仕える主の背後に控えた。すぐ側には革張りのソファーセットと、豪華な装飾がされた天蓋付きのベッドが二つ並んでいる。

 男は開かれた扉の外をチラっと目配せする。すると、今までどこに潜んでいたのか、銃や剣で武装した男たちが五人現れ、バタバタと部屋に入ってきた。いかにも『兵隊』という格好をしている彼らは、男を守るように周囲に陣取った。

 しかし、王女は怯むことなく男に向かい、あらためて同じ質問を繰り返した。

「もう一度訊きます。父と母はどこです」

「ここにはおりません。私どもがお連れ致しました」

 室内をゆっくりと歩き回りながら、男は答える。

「どこへですか?」

 王女は眉根を寄せて、再度質問をぶつける。だが彼は

「それは申し上げかねます」

 天井に目を向けて言い放つ。

「では質問を変えます」

「どうぞ?」

 男は薄笑いで余裕の目を向ける。

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