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メダイユ国物語

第6章 小さな慰み者

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 ドン、ドン、ドン――

 重厚な扉が、重い音を三度鳴らした。誰かがノックしているのだろう。

 眠気に襲われウトウトしていたマレーナは、その音にハッとする。

(パウラ……あの子が帰ってきた)

 そう考える間もなく、マレーナの足は扉に向かっていた。
 重い扉を開くと、やはりそこにはパウラが立っていた。マレーナはほっと胸を撫で下ろし、彼女に微笑みを向けた。

「お帰りなさい。パウラ」

「ただいま戻りました……」

 パウラは俯きながら、主と目を合わせようとしない。

 汚らわしい行為の直後であることを、彼女は気に病んでいるのだ。マレーナもそれは十分に分かっている。それ故に、努めて明るく小さな侍女を迎えようと思った。

「ご苦労様でした。疲れたでしょう?」

 そう言いながら、マレーナは身を低くし、小さなパウラの身体を抱き寄せた。

 すると、パウラは身体を離そうと身悶える。

「いけません。私の、パウラのこのような汚れた身体に触れたら、マレーナ様のお召し物も汚れてしまいます」

「パウラは汚れてなどいません」

 王女は矜持の満ちた声で侍女を諭す。

「あなたがあのような目に合わされるのも、わたしの身を案じてのことなのでしょう?」

 侍女が不安がらぬよう、彼女の小さな身体を抱き締める手に力がこもる。

「わたしの身代わりになっているあなたを、汚れているなどと思うわけがありません」

「マレーナ様……」

 パウラの目から涙が溢れる。

「だから、自分のことを『汚らわしい』などと言わないで。ね?」

「は、はい」

 パウラは顔を上げる。ようやくマレーナと目を合わせられた。

「これ以上あなたにあんな事をさせないよう、わたしが何とかする。だからあと少しだけ、辛抱してちょうだい」

 当てがあるわけではなかった。だが、これ以上自分に仕える侍女に、不愉快な思いはさせられない。あの男、オズベリヒに何度でも掛け合おう。彼が根負けするまで。王女は決意を新たにする。

「分かりました。マレーナ様」

 給仕服の袖口で涙を拭いながら、パウラは健気に答えた。

「疲れたでしょう? お風呂に入って、今日はもう休みましょう」

 マレーナは笑顔を見せて言う。

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