メダイユ国物語
第6章 小さな慰み者
5
ドン、ドン、ドン――
重厚な扉が、重い音を三度鳴らした。誰かがノックしているのだろう。
眠気に襲われウトウトしていたマレーナは、その音にハッとする。
(パウラ……あの子が帰ってきた)
そう考える間もなく、マレーナの足は扉に向かっていた。
重い扉を開くと、やはりそこにはパウラが立っていた。マレーナはほっと胸を撫で下ろし、彼女に微笑みを向けた。
「お帰りなさい。パウラ」
「ただいま戻りました……」
パウラは俯きながら、主と目を合わせようとしない。
汚らわしい行為の直後であることを、彼女は気に病んでいるのだ。マレーナもそれは十分に分かっている。それ故に、努めて明るく小さな侍女を迎えようと思った。
「ご苦労様でした。疲れたでしょう?」
そう言いながら、マレーナは身を低くし、小さなパウラの身体を抱き寄せた。
すると、パウラは身体を離そうと身悶える。
「いけません。私の、パウラのこのような汚れた身体に触れたら、マレーナ様のお召し物も汚れてしまいます」
「パウラは汚れてなどいません」
王女は矜持の満ちた声で侍女を諭す。
「あなたがあのような目に合わされるのも、わたしの身を案じてのことなのでしょう?」
侍女が不安がらぬよう、彼女の小さな身体を抱き締める手に力がこもる。
「わたしの身代わりになっているあなたを、汚れているなどと思うわけがありません」
「マレーナ様……」
パウラの目から涙が溢れる。
「だから、自分のことを『汚らわしい』などと言わないで。ね?」
「は、はい」
パウラは顔を上げる。ようやくマレーナと目を合わせられた。
「これ以上あなたにあんな事をさせないよう、わたしが何とかする。だからあと少しだけ、辛抱してちょうだい」
当てがあるわけではなかった。だが、これ以上自分に仕える侍女に、不愉快な思いはさせられない。あの男、オズベリヒに何度でも掛け合おう。彼が根負けするまで。王女は決意を新たにする。
「分かりました。マレーナ様」
給仕服の袖口で涙を拭いながら、パウラは健気に答えた。
「疲れたでしょう? お風呂に入って、今日はもう休みましょう」
マレーナは笑顔を見せて言う。
ドン、ドン、ドン――
重厚な扉が、重い音を三度鳴らした。誰かがノックしているのだろう。
眠気に襲われウトウトしていたマレーナは、その音にハッとする。
(パウラ……あの子が帰ってきた)
そう考える間もなく、マレーナの足は扉に向かっていた。
重い扉を開くと、やはりそこにはパウラが立っていた。マレーナはほっと胸を撫で下ろし、彼女に微笑みを向けた。
「お帰りなさい。パウラ」
「ただいま戻りました……」
パウラは俯きながら、主と目を合わせようとしない。
汚らわしい行為の直後であることを、彼女は気に病んでいるのだ。マレーナもそれは十分に分かっている。それ故に、努めて明るく小さな侍女を迎えようと思った。
「ご苦労様でした。疲れたでしょう?」
そう言いながら、マレーナは身を低くし、小さなパウラの身体を抱き寄せた。
すると、パウラは身体を離そうと身悶える。
「いけません。私の、パウラのこのような汚れた身体に触れたら、マレーナ様のお召し物も汚れてしまいます」
「パウラは汚れてなどいません」
王女は矜持の満ちた声で侍女を諭す。
「あなたがあのような目に合わされるのも、わたしの身を案じてのことなのでしょう?」
侍女が不安がらぬよう、彼女の小さな身体を抱き締める手に力がこもる。
「わたしの身代わりになっているあなたを、汚れているなどと思うわけがありません」
「マレーナ様……」
パウラの目から涙が溢れる。
「だから、自分のことを『汚らわしい』などと言わないで。ね?」
「は、はい」
パウラは顔を上げる。ようやくマレーナと目を合わせられた。
「これ以上あなたにあんな事をさせないよう、わたしが何とかする。だからあと少しだけ、辛抱してちょうだい」
当てがあるわけではなかった。だが、これ以上自分に仕える侍女に、不愉快な思いはさせられない。あの男、オズベリヒに何度でも掛け合おう。彼が根負けするまで。王女は決意を新たにする。
「分かりました。マレーナ様」
給仕服の袖口で涙を拭いながら、パウラは健気に答えた。
「疲れたでしょう? お風呂に入って、今日はもう休みましょう」
マレーナは笑顔を見せて言う。