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人造人間フランくん

第3章 嫉妬心、芽生える。

季節は7月、時刻は午後2時30分。白はうだるような暑さに、またもやだらしない格好で部屋の中に転がっていた。カップ付きのタンクトップとパンツだけを身に着けた彼女の体は、生白く不健康的だ。腰まである黒髪はリンスインシャンプーでしか労わっていない為に傷んでいるし、爪はストレスの度に噛んでいるからガタガタと形が悪い。しかし、その顔はどうであろうか。科学者にしては視力が良く眼鏡を必要としない両眼は二重で丸く、愛嬌のある柴犬のように黒々と光っている。鼻筋は高くはないものの小鼻は小さく形が良く、唇は血の色を薄く透けさせた程好い宍色だ。彼女は彼女自身にもう少し手を掛けてやれば、間違いなく美しいと呼ばれる容姿を身に着けていた。
それでも、彼女にとって彼女が醜いのは、愛する者の裏切りであった。彼女の両親はいわゆる毒親で、それでも彼女は二人を愛していた。
先に裏切ったのは父だった。父は美しい彼女を溺愛し、時に恋人か何かのように振る舞う変態だった。近親相姦などいう最悪の結末は免れたが、父の溺愛は元から激昂しやすい母の妬心を煽った。
そう、父の次に母は彼女を裏切った。何の罪もなかった幼い彼女を、母は虐待するようになったのだ。自分よりも夫に愛される娘を前に、母は白を暴言や暴力で傷つけ始めたのだ。それは所謂、お門違いの八つ当たりであるのに。
結果的に、母の行動はエスカレートし、最後には白を含めた一家三人の無理心中未遂に至った。結果的に両親は死に至り、白は虐待の事実が露見して保護施設で治療を受けることになった。体の傷は殆どが治ったが、それでも、心に刻みつけられた父の執着と母の怨嗟は消えることがなかった。母の言葉を、彼女は未だに反芻していた。
(お前は醜い、お前は人を狂わせる、お前は悪魔だ。この世界にいる誰一人お前を愛してはいない!)
聡明な白は母の虐待が一つ残らず理不尽であると理解している。それでも、子供心に汚された純粋が形を戻すことはない。そうして、白は愛されることを諦めた。
「でも、死ぬまで生きることくらい、許されたって良いだろう。独りぼっちで生きるなら、自由と金と嗜好品くらい手に入れたって良いだろう」
そんなことを考えていると、僅かに離れた玄関から宅配便の音が聞こえた。

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