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人造人間フランくん

第2章 動画配信、始めました。

フランが料理動画を投稿した頃には、所謂リアコ・ガチ恋勢という勢力が生まれてきた。そんなフランの動画を、白は別室で見ながら少しばかりの不満を抱えていた。
「はん、やはり俗世の凡愚は私の作品の、表面上の美しさにしか興味はないのか。私の最高傑作が、どれほど機能的で従順であるかも知らないくせに。リアルな恋など聞いて呆れる」
動画のコメント欄に集められたフランへの劣情を、白はパソコンの液晶画面への配慮も無く指ではじいた。液晶が僅かに色を乱し、しかし動画に書き込まれた文章は消えない。
『フランくん、卵を割る姿さえ格好良い』
『私も料理できる彼氏欲しいよ~!』
『フランくん彼ピになって』
勿論、リアコやガチ恋勢のコメントにアンチを向ける一般視聴者もいる。中には自警団のようになってそのようなコメントにNGを掛けて追い出す集団もいるが、彼等彼女等の大半もまたリアコやガチ恋、それを行き過ぎた信仰に変えた者達だろう。
「醜いものだ。一人の人間……否、彼は人造人間か。人造人間がどのような好悪や思想を持っているかも知らないままに、その美しさばかりに愛を寄せるのだから……その醜さの最たるものが私なのだろうが」
自嘲を含んだ声で白が呟く。そう、彼女は自分自身を醜いと思うが故に、フランを美しく作り上げた張本人だった。
果たして彼女は醜いのか。否、確かに絶世の美女とは言えないが、彼女は普通の、何処にでもいる様な愛らしい女性である。彼女が此処まで自分を醜いと否定する理由を、語ることの出来る人間は少ない。彼女自身が、自分を傷付ける彼ら彼女らから距離を置き、そうして並の世間から姿を消すようになったからだ。今や彼女の存在を知る人間は、いつも荷物を運んでくれる宅配便のお爺ちゃんか郵便配達のおばさんしかいない。
「……それで良いと思っているのに」
なんだろう、この気持ちは。コメント欄に書かれた文字に、暗い感情が蔓延る。フランに「恋」を抱く人間の人生全てに、NGを出してやりたくなるのだ。
(フランは、私のモノなのに)
そんなことを考える私自身もまたNGを出されるべき人間なのだ。そんなことを考える白に、フランは後ろから彼女を抱き締める。
「Dr.シュガー。配信が終わりました」
「ああ、御苦労、フラン」
腕の中の温かさがより深く彼女を落ち込ませることを、フランはまだ知らない。

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