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時給制ラヴァーズ

第7章 7.ヴァージンペーパー

「いや、うん、答えは嬉しいんだけど……ちゃんとわかって頷いてるか?」
「ダメ? よく考えたら俺すごい慶人好きだなって気づいたからじゃあ付き合うの普通じゃんって思って」
「待て。どうにも軽いというかなんというか……」

 慶人としてはもっと情熱的な返答を求めていたのか、ものすごく困惑しているのがわかる。
 でも元からバイトで恋人のふりをしているのにも無理が出てきていたし、世間的にってのは別としてこうなるのが普通じゃないかなと思ったんだけど。
 深く考えないようにしていたとはいえ、今思えば自分の行動もなかなかにして普通じゃなかった。
 それはすでに慶人が俺の中で誰とも違う存在になっていたからだと理由付ければ、割とあっさり納得がいった。

 ただずっと「男同士」で「バイトで恋人のふり」をしていたから、そこに芽生えていた気持ちに「愛情」という名がつけられなかっただけ。
 慶人も俺も、本来なら見えているはずの関係に名前を付けることから逃げていた。お互いバイトということに気を取られて、二人してそこから目を背けていたんだ。

 ……そりゃあ意識すれば簡単にわかることを間抜けにも気づいていなかったんだから、城野も自分で考えて答えを出せと言うわけだ。
 そして乗り越えるべき葛藤は意識しないうちに乗り越えてしまっていて、こうなるとむしろ収まるところに収まったということなんだろうって気分なのに。
 俺が納得しているようには、慶人は納得出来ていないらしい。
 いや、俺の言葉に説得力がないのか。
 眉間にしわを寄せて疑う顔で俺を見ている慶人。その顔を見ていたら、一つわかりやすい答え方を思いついた。

「つまりこういうことでしょ?」

 言葉で信じられないなら行動するのみ、と身を乗り出して唇をくっつける。
 好きな者同士がするキス。これが俺の答え。

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