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時給制ラヴァーズ

第1章 1.冗談ではないらしい

「……樫間くんってかっこいい人だね。モテるでしょ?」
「え、な、なんだよ急に」

 その羨ましさが思わず口から零れて、樫間くんがぎょっとしたように視線を揺らす。ここで「ありがとう」とか「まあな」とか言ってキザに笑うわけでもないのか。
 自覚のないイケメンとか、いじめられても文句言えないと思うけど、きっとこういう人って男友達にも好かれるんだろう。つくづく世の中ってのは不公平だと思う。

「かっこいいんだからもっと笑ったらいいのに。難しい顔してるととっつきづらいし恐いもん」
「こ、恐いか?」

 初めてそんな言葉を言われたかのように驚いて自分の顔を触る樫間くんに、素直に頷く俺。
 目つきが鋭くて顔が整っている分、表情がないと喋りかけられないくらい恐いオーラが出ているように見える。
 城野と同じように喋って見ればそうじゃないということがわかるけど、恐いものは恐い。

「幸せなら笑わなきゃ。幸せなカップル演じるのにそんな恐い顔してたら疑われちゃうよ?」
「こ、こうか?」
「ふはっ、すげー不自然すぎるー! 笑ってるのに恐いの面白い!」

 口の端を無理矢理吊り上げて笑みを作る樫間くんは、眉をひそめたままだから余計怪しくて、思いっきり噴き出してしまった。
 作った笑顔が恐いとはどういうことだ。それが妙にツボに入ってしまって笑い転げる俺を、樫間くんは「変な奴」と呟き肩をすくめて笑った。

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