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時給制ラヴァーズ

第2章 2.急ごしらえのコイビト

「……あのさ、聞いておきたいんだけど、俺らってどこまでいってる設定?」

 一応事が事だけに身を寄せて小声でひそひそと囁く。すると慶人は一瞬呆けた顔をしてから、思い当たったように眉を潜めた。それから周りを窺うように視線を巡らせる。
 日用雑貨が並ぶいたって平和的な売り場。そんな場所でこんな話をするのはどうかと思うけど、恋人設定用の買い物に来ているのなら聞かねばなるまい。

 たとえ付き合いたてだとしても、小学生ってわけじゃなし、行き着く先があるわけで。
 なにも求めないプラトニックな関係っていうわけには……いかないと思うんだ。

「ああそうか。そうだな。そうだった。ありがとう。あの二人なら絶対そういうとこ探るに決まってるからな」
「え、そうなの?」

 ポーズとして必要ではないかと自分で提案したことだけど、まさか本当にそこまでチェックする親だとは思わなかった。
 でも、それならより一層もう少し深く設定を考える必要があるのではないか。

「やっぱり一応一通りというかいくとこまでいっちゃってた方が引き返せない感じがしていいよね?」

 この作戦の目的は、慶人の両親に結婚は当分の間無理ということをわからせること。後でまた言われるにしろ、とりあえず大学生の間ぐらいは黙っていてほしいってのが慶人の願いだから、本気で信じ込ませるというよりもインパクトで攻めた方がいいだろう。それこそ驚きで二、三年黙っててくれるくらい。
 騙すことになるご両親には申し訳ないけど、やっぱり過剰な干渉は見ていても嫌だし、俺の雇い主はあくまで慶人。だから慶人の願いが優先なんだ。

 そうなると簡単には引き裂けないような仲じゃないといけない、と思う。
 つまり、しょっちゅうイチャイチャしてて、毎日同じベッドで寝るからにはそれなりのことをしちゃってる仲に見せかけないといけないってわけだ。
 それに必要なものは、今さら言うまでもない。

「後でネットかなんかで一式買っとく」

 さすがにこればっかりは二人で買い物、という度胸もなく、そしてこの場合そんな度胸試しもする必要がない。そういうわけで慶人は気まずそうに俺から視線を外してぼそりと返してきた。
 自分で言った手前買いに行かなきゃいけないんじゃないかと思っていた俺は、申し訳なくもひそかに胸を撫で下ろしたのだった。

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