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時給制ラヴァーズ

第3章 3.うそつきデートの行方

「慶人、絶叫系は苦手……っぽいね」
「得意、ではない」

 一応聞いてみようと振り返った慶人はあからさまに表情を固まらせていて、声は感情が抜け落ちたような平坦な調子だった。どうやらスピード落下系は苦手な部類らしい。

「やめとこっか?」
「いや、……いや、うん、乗ろう。大丈夫。ただ速いだけだ」

 いつものクールさはどこへやら。
 強張った顔のまま歩き出す慶人。そんなに苦手ならいいよと止めようとしたけど、親からの結婚しろ攻撃に比べたらなんてことない、とぶつぶつ言いながら俺の手首を掴んでジェットコースターに向かっていく。
 しかも俺がなにか言おうとするたび先んじて「大丈夫」と繰り返す辺り、まったく大丈夫そうではない。
 その姿を見て、また知らない一面を見たと内心喜んでしまったことを反省する。
 恐がっている慶人を見て喜んでいるわけじゃないんだ。ただ、そういうところを見たことで、慶人って人の理解が深まった気がしたのが嬉しくて。

 それでも違う意味で笑ってると思われないように顔を引き締めつつ、ほとんど人のいない列に並ぶ。
 そしてあっという間にコースターの乗り場に着いて、ふと気づいた。

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