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時給制ラヴァーズ

第3章 3.うそつきデートの行方

 そもそも俺たち恋人設定なんだ。しかも誰にも引き離せないと思わせるくらいのラブラブ設定。だったらこんなことで照れてちゃダメじゃないか。
 いつ親御さんが訪ねてきても万全な対応ができるようにしっかりしなければ。遊びじゃなくて、これはバイトなんだから。

 ……そう、バイトなんだ。
 本来の俺たちは友達でもなんでもなく、あくまで慶人が結婚の押し付けから逃げるための作戦協力者。
 一緒に住んでいるのもルームシェアではなく、あくまで恋人設定のバイト中だから。
 慶人だってそのつもりで距離を近づけてくれてるに違いない。
 そもそもこんな変なバイトで出会わなきゃ、俺たちはまず会うはずもないくらい別の世界で生きてる人間なんだから。惚けていないで気合入れて頑張らねば。

 そんな風に俺が一人で考え込んでいたからか、慶人は首にぶら下げていたカメラを遠くへと向けてファインダーを覗き込んだ。その横顔は真剣だけど、難しく考え込むような険しいものではなくて、自然でとても似合っていた。

 改めて本当にかっこいい男だなとしみじみ思う。それでも、慶人は慶人でこちらが思いつかないような悩み事があるんだから世の中はある意味平等なのかもしれない。
 まあそりゃあ幸せになってほしいよな、こんな息子だったら。
 それでもこんな風になににも煩わされない時間がもっとあったらいいのに、とぼんやり見つめていたら、無意識のうちにスマホで写真を撮っていた。なんとなく、その表情がもったいない気がして。

「なに」
「いや、かっこよかったから」

 その音に気づいて振り返った慶人が驚いたように聞いてきたから、素直に答える。
 するとそれに対して肩をすくめた慶人が、なにかを言おうと口を開こうとした瞬間、子供の泣き声が響いた。

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