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時給制ラヴァーズ

第3章 3.うそつきデートの行方

「ご、ごめ……いたたたたっ」
「あ、わ、悪い」

 反射的に謝ろうとした俺の唇を、慶人が自分の服の袖で勢いよく拭いてきた。
 ごしごしと強い力で擦られ、その痛さに声を上げたら我に返った慶人が同じように謝って席を立つ。そして向かいの席に移ると、手を伸ばしてまた俺の唇をごしごしと擦ってきた。だからその手を掴んで止めさせる。

「いいって。てかごめん、今のは俺が悪かった。ちょっとほっぺにちゅーとかしたら恋人っぽいかと思って……。まさか慶人が振り向くなんて思わなくて」
「いや、俺の方こそ悪かった」

 強く擦ったせいでヒリヒリする唇が熱を持つ。少し腫れているかもしれない。
 というか、慶人も動揺しているんだろうか。普通唇を擦るなら自分のを擦るだろうに。
 誤魔化すように、衝撃で思わず指に力が入って撮ってしまった写真を確認してみれば、いいのか悪いのか見事にその瞬間を捉えていて苦笑いをしてしまった。

「……せっかくだから使おっか」

 二人とも驚いてはいるけれど、それが逆に初々しくていい写真なのが悔しい。いっそ俺には写真の才能があるんだと自慢したくなる出来だ。
 それでも、不意打ちのちゅーの衝撃はなかなか消えず。

 それ以降、俺たちはそれぞれに遠くの景色を眺めて残りの気まずい時間を過ごした。
 今日はなにをやっても空回りばっかりだ。そろそろ家から追い出されるんじゃないだろうか、俺。

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